キンタマをつかむ
どっこいSIerは簡単になくならないが面白い。著者id:mkusunokさんの意見に同意。
実のところ丸投げ自体が悪いとは思わない。経営にとって重要じゃない機能であれば、丸投げで型通りのものを使った方が安上がりだ。
もう一歩進んで、「経営にとって重要じゃない業務であれば、丸投げで型通りのものを使った方が安上がりだ。」とも言える。米国だとADPなんかが有名。ここは人事給与管理の業務を丸受けする会社。[*1]
開発だけを投げちゃうのは、「開発という業務は経営にとって重要じゃない」から。そして、そう判断できるのは「システムの企画から要件定義」と「設計開発」を分離できると経営陣が信じているから。[*2]
これまで重要かどうか腑分けせず、さらに丸投げなのに手組みするものだから、おかしなことになっていた訳だが。
お客さんにとって重要な業務のシステムを丸受け(設計、開発から日々の運用まで)することを、自分の所では「キンタマをつかむ」という。[*3] タヌキはキンタマつかまれたら、もう動けない、ってこと。上記ADPが請け負う人事給与なんてのはキンタマでもなんでもないけど[*4]、流通業におけるPOS処理とか、銀行における勘定システムなんてのはかなりコアなキンタマだ。
昔は計画的にキンタマをつかませてた
以前日米の差でこんなことを書いた。
- 米国: インハウスかアウトソースかを費用対効果で検討して決める。なので、基幹システムは自社で面倒見て、会計システムや人事システムはアウトソース、みたいな判断も当然でてくる。CIOとシステム部門が企業内でそれなりの力を持っていて、システムの費用対効果を高めるためなら、現場の業務はもちろん、経営方針にも口を出しちゃう。
- 日本: おそらく日本企業の多くも昔はそうだったのだろうけど、アウトソースのほうが楽だからどんどんアウトソーシングしちゃって、やがて思考能力を失なってしまい、もはやアウトソーシングなしではやっていけなくなった... で、CIOは経営陣とアウトソース経営層、システム部門は自社現場部門とアウトソース開発者とのブリッジ役になってしまった... 思考能力がないので、費用対効果を計算できない。よって、ただひたすら「アウトソース費用が高い〜 アウトソース費用が高い〜」と言い続けるしかない... というのは言い過ぎかな?
日本の大手SI屋の歴史を見ればわかるけど、昔は計画的にキンタマをつかませていたのね。大手銀行や証券会社が、系列の(資本関係にある)メーカーに仕事が流れるように自社システム開発を投げていた。それを管理するのが自社情報部門で、そこを子会社分離。子会社は親会社システム開発で得た知識を横展開して成長。さらに、資本関係にある別業態(流通とか保険とか)も面倒見るようになってSI屋の看板を掲げるに至った、と。
計画的にキンタマつかませていた頃の顧客側は、かなり戦略的にやっていたんじゃないかな。それにより系列のメーカは伸びるし、自社も本業に集中できる。
今はつかんでる・つかまれてるのが常態
でも、そんなやり方を10年、20年と続けていると、キンタマつかんでる/つかまれている事が常態化してしまう。確かにSaaSなんてのは既存丸受けSI屋からすれば脅威だ。でも、キンタマつかまれているお客さんが「SaaS活用で現行システムを安くする提案をもってこい!」といったところで、現状の売上げを落とすような提案がSI屋から出てくることはないだろう。「Salesforceはほげほげなので、御社システムには不適です」みたいなレポートがでてくるのがオチ。(現状の売上げに全く影響を与えない、付加的なSaaS追加ならSI屋は喜んで提案してくるだろう。CRMモノが流行るのはそのせい。)
で、キンタマつかまれているお客さんは、そのレポートを信じるしかない。SaaSを活用して自力で作ってみるって?
- SI屋に任せている現行システムとのつなぎはどーすんの?
- データの移行はどーすんの?
- 業務をアメリカ風に変えられるの?
- カスタマイズしたら、実はSI屋のほうが安いんじゃないの?
- 日々の障害対応は誰がやるの?
(などなど、SI屋がこねる理屈)
なんだかんだいって、自力移行などできやしない。これが「キンタマつかまれている」という事実なのだ。
本気でキンタマを奪回したいのなら
本気でインハウス開発に戻りたいのなら、SI屋に任せているシステムを買い取る、くらいの決断がお客さんの経営陣に必要なのでは。もちろん、システムだけ買い取っても触れないのがオチだから、人ごと(SI屋の部門ごと)買い取るわけ。
でも、そんな決断は当面はできないだろうから、結局SI屋は「高い〜」「うそつき〜」と言われながらも存在し続ける。id:mkusunokさんのいうとおり。