安物買いの銭失い...開発をアウトソースしてはいけないという事例

機内で読んだWall Street Journal(紙媒体版)2007年12月7日金曜日A1面の記事より

Boeing Scrambles to Repair Problems With New Plane

要旨

  • 次期旅客機787Dreamlinerの開発が遅れている
  • 最大の理由は自社開発ではなく、アウトソース活用を試みたこと
  • 機体の設計開発をアウトソースしたのはボーイング91年の歴史で初の試み

アウトソースした理由

  • 機体素材に炭素繊維を使う787は基礎研究だけで大きな投資が必要だった
  • 開発投資額は100億ドル(1兆1000億円)に達する
  • 開発投資を抑えるため、部品供給メーカ達に設計開発を委託(アウトソース)

発生した問題

  • 多国にまたがるアウトソース
    • 言語の壁
    • 米国では想定していなかった各種規制
  • 孫請けに仕事を分散させることによるオーバーヘッド
    • 同じ企業なら会って話せば済むのに、大量の文書受け渡し+機密保護規程締結などで大変な労力に
  • 最初の「お披露目」では1万以上の部品が足らないという事態に
    • 特に部品同士を結びつける特殊仕様のネジ類の不足が深刻→いわゆる境界問題ね
    • 部品の最終設定も、アウトソース先がやるのかボーイングがやるのか不明確だった
    • ボーイングが自力で設定しようにも、指示書が英語になってなくてできないとか(笑

現状

  • 少なくとも半年の遅延
  • 今は実機テストより「最初の一機」完成に注力(ぉぃ...
  • 2009年末までに109機を納品する必要あり
  • 納品先の数社は2008年の北京オリンピックでの利用を想定
    • 納期遅れは数百万ドルの違約金につながる
  • ソフトウェア部門は「開発が進むほど、詳細部分での想定外要件が発生している」という状況
    • よ〜くわかる(笑
  • アウトソース先の部品メーカは「ボーイングからの最終要件提示は3〜8ヶ月遅れている」と主張
    • これもよくわかる(笑

失ったもの・失う可能性のあるもの

  • 想定外の状況に対処するために追加投入した労力は20億ドル(2200億円)に迫る
    • 100億ドルのうちのいくらかを節約するためにアウトソースしたのに...安物買いの銭失いとはこのこと
  • プロジェクト成否の鍵をアウトソース先の部品提供メーカに握られてしまった
  • 同様のアウトソース開発を検討している競合相手エアバス社に「失敗事例」を提供してしまった
    • エアバス社は「勉強代」20億ドルを節約できたことになる

今後

  • ボーイング社は2009年末の納期に対して楽観的
  • アウトソース先はそうは思ってない→ありがち(笑

所感

  • 最終工程の組み付け段階で「ネジがない〜」「どうやって組み上げるんだ〜」「動かない〜」とかいう悲鳴が上がってるのかと思うと、787には乗りたくないと思った。
  • 実機テスト不足で現場配備される新型旅客機... どう考えても乗りたくないなー(笑
  • その企業にとって「核」となる製品やサービスの開発をアウトソースするのは最悪の選択なんだよ。
    • プロジェクト成否の鍵をアウトソース先に握られてしまう...日本型SI屋がのさばるのも、このあたりに理由が。
  • Agileを採用しているロッキードとは大きな違いがあるね

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