クラウドとは「何」か? という禅問答はもうやめよう

日経ビジネスの「つまるところ“クラウド”って何?」には、クラウドブームにおける典型的な混乱がよく描かれている。だけど、その混乱がなぜ発生しているのかは、この記事ではうまく説明されていない。ひとつ言えるのは、日経ビジネス編集長は「クラウドとは"何"か」と定義可能な「何か」と捉えているであろうということである。

ここでNIST(National Institute of Standard Technology)のクラウド定義をみてみよう。
http://csrc.nist.gov/groups/SNS/cloud-computing/cloud-def-v15.doc

Cloud computing is a model for enabling convenient, on-demand network access to a shared pool of configurable computing resources (e.g., networks, servers, storage, applications, and services) that can be rapidly provisioned and released with minimal management effort or service provider interaction. This cloud model promotes availability and is composed of five essential characteristics, three service models, and four deployment models.

前半は「雲になったコンピュータ」著者の森さんがうまく日本語訳しているので、そちらを引用。
http://computerbecamecloud.blogspot.com/2009/09/nistgsa.html

クラウドコンピューティングとは、共用プールにある構成可能なコンピューティング資源(ネットワーク、サーバー、ストレージ、アプリケーション、サービスなど)をオンデマンドで利用し、最小限の管理努力やサービスプロバイダーとのやり取りで、迅速に供給できるモデルである

さらに補足がある。

  • 5つの基本特徴を備えていて(On-Demand Service, Ubiquitous Network Access, Location Independent Resource Pooling, Rapidly Elasticity, Measured Service)
  • 3つのサービスモデルに分類でき(SaaS, PaaS, Iaas)
  • 4つの適用モデルが存在する(Public, Private, Community, Hybrid)

つまる所、クラウドとはシステムの「属性」なのである。なので「クラウドとは"何"なのか」と考えだすとおそらく収拾がつかなくなる。だが、「このシステムはクラウドか否か」と判定することはさほど難しくない。にも関わらず、あちこちの企業・団体で「クラウドとはなんぞや」という禅問答が繰り返され、貴重な時間と労力が浪費される。もったいない話である(笑

試しにクラウド以外での「属性」で考えてみると良い。例えばイケメンで考えてみよう。「イケメンとは何か?」という質問に答えることは簡単ではない。NISTに学識経験者があつまり、一年程議論して「イケメンとは以下のような条件を満たす男性であり...」という文書がでてくることだろう。だが、「masayangはイケメンか?」という質問には、誰もが簡単にNoと答えられる。クラウドもそんなものである。

そして「このシステムはクラウドか」「あれはクラウドか」と列挙していくと、クラウドに分類されたシステムには巨大な共通点が観察される。それは...「システム」なのである。イケメンの一覧をみて、「こいつら男だよな」というようなもので、日経の編集長が「従来のシステムと何が違うの? こんなの昔からあるじゃない?」と悩むのも当然と言えば当然である。が、そこは日経ビジネス。「必要なときに、必要なだけ」というクラウドの本質は外していない。