WADAと警察の違い

予想どおり(?)、Operation Puertoでリストに挙がっていた選手が、ポロポロと「無罪放免」となってきている。Cyclingnews.comの8月17日の記事ではLiberty Segurosの2名(Alberto Contador および Sergio Paulinho)が捜査対象から外れたことが報道されている。ただし

"You have to be a little bit careful here," warned McQuaid, "because the letter which they have received, is a letter saying that are not involved in any legal investigation; that is separate from an anti-doping investigation.

UCI会長のMcQuaid氏は、「ちょっと注意してほしいのは、彼等は法律違反はしていないことがわかっただけで、これはドーピング違反とは別の話だ」と注意している。

ほとんどの国の警察ができることは法律違反している人達を捕えることまで。例えば「うちの社規に違反しているから、こいつを逮捕してくれ」と警察に言っても、法律違反していない限り取りあってくれないだろう。Operation Puertoでいえば、違法薬物*1の所持・取引・投与までは警察が手を出せるけど、血液ドーピング(reinfusing)に使う血液の保管は取締りする根拠がないでしょ。*2

一方、WADAの視点で見ればこれらの血液は大問題。ただし、WADAは警察ではないから家宅捜査したり、あやしい医師に尋問したりする権限はもってない。なので、Operation Puertoの証拠物件にWADAは手も足も出せない。競技後の尿検査でドーピングしたかどうか調べる。これがWADAにとっての唯一の捜査手段。

WADAは警察ではないし、警察はWADAではない。

だけど、WADAの中には警察みたいな捜査権を欲しがっている人がいる。会長のDick Poundだ。Cyclingnews.comの8月14日記事には、Pound氏がカナダのOttawa Citizen紙に書いたコラムの抜粋が掲載されている。

In Pound's column, he says the answer to the issue of doping in cycling, "lies in the formula established by the World Anti-Doping Agency". Working with governments on "all five continents", it would appear that Pound sees a greatly enhanced role for WADA and its signatory agencies in the future; one where the scientific specialists acquire the power of law enforcement agencies.

コラムの中でPound氏は、自転車競技でのドーピング問題の課題は「WADAの役割そのもののに原因がある」と書いている。将来的には科学的権威者達が警察並の捜査権力を手に入れるという、WADAおよびその傘下機関の大幅な権力増強をPound氏は描いているようだ。

"Sports authorities have no power to seize evidence, to compel people to provide evidence and to enforce trafficking rules. Possession and use of most doping substances without medical prescriptions are already illegal (as in Canada), so the combination of the sport and public authorities provides a means to get at the full range of the evidence needed to stop doping," Pound wrote.

「ドーピング検査機構は証拠物件を押収することも、証拠物件提出を強制することも、違反物質の流通を規制することもできない。ドーピングで使われるような薬品の多くは処方箋なしに所持することも服用することも違反だから、警察力とドーピング検査機構の力を組み合わせれば、ドーピング抑止に必要な証拠物件の全てを集められることになる」とPoundは書いている。

でも、これって正しいことなのだろうか? 警察ですら、捜査権の濫用ができないように一定の枠をはめられている。 調査される側の人権を守る必要があるからだ。 WADAも同様。選手の権利を守るため、採取した検体の検査には厳しい枠がはめられている。*3

Operation Puertoは、これらの枠が外れたらどうなるかを垣間見せてくれた気がする。警察側には捜査に挙がっている選手リストを公表する権利があったの? WADA(実際に動いたのはASOだけど)は「疑惑」があがった選手の出場権を奪う権利があったの? どちらも答えは「No」だよね...

自分はもうDick Poundという人間を完全に嫌っているので、Operation Puertoですら彼が仕組んだんじゃないかと疑ってしまう(笑)

例えば警察が麻薬密売人を捕えて、そこで芸能人の顧客リストらしきものを発見したとしよう。警察はそれを発表するだろうか?そんなことせずに内偵を続けて決定的証拠や、元締めを押さえるのが警察の仕事でしょう。

*1:医師の処方箋が必要なのに利用する場合も含む

*2:スペインではドーピング目的の輸血は違法みたいだけど、現行犯でなければ摘発できない...調査中です

*3:Lance Armstrongはこの枠を無視され、怒った。Floyd Landisの場合も、この検査の枠は無視されっぱなしだ。