自転車競技界につける薬

VeloNewsにMcQuaid UCI会長がスペイン当局に抗議というニュースが出ている。Operacion Puertoの捜査状況がきちんと報告されないので、捜査対象になっている選手達がProチームに戻ってしまっているじゃないか、というわけ。

そもそも確たる証拠がないうちに選手達を出場停止にしてしまったASOやUCI側にも問題があるはず。ちょっと頭悪すぎ。

と思っていたら、このあたりをチクリと突いた記事発見。原文はこちら。例によって無断かつ適当な翻訳。

長いから、覚悟して読んでくだされ。

プロ自転車界最大の脅威=古参選手達による運営

2006年はプロ自転車レース界での最悪な年(の一つ)だった。例えばこんな感じだ。

  • 運営母体UCIの完璧なまでの崩壊。その原因は、「古参選手達」がプロスポーツ競技組織を運営しようとしたことにある。
  • Operacion Puertoは劇的に幕を開いたが、尻すぼみに終わってしまった。当初の告発はスペイン当局によるごまかした。
  • 各チームの倫理規定は役に立たない紙切れ以外の何物でもなかったようだ。
  • プロチームは二種類になってしまった。プロ自転車競技をスポーツとして維持していこうとするチームと、彼等の努力を台無しにしようとする連中がいる。
  • 選手達は何が起きているのかも、プロとしての生活をどうやって維持していくのかも、知ることができない状態だ。

さ ら に 、プロ自転車競技を崩壊に導く脅威として、以下のようなものがある。

  • Pro Tourは運営組織不在の失敗作でしかなかった。UCIにはお金が落ちてないのである。
  • UCI、WADAなど関係組織トップ達による権力争い。ここには「ビジネス」が大事という感覚はなく、指導者達のエゴしか存在しない。

さらにさらに、「プロ自転車界 血の掟」みたいなのが存在するわけだ。[*1] わかりやすく言うと、「自転車競技でどんなことが起きようと、決して他言せず、関係組織や報道陣には口を閉ざすべし」みたいな暗黙の了解だ。

以上の記述は完璧ではないけど、現在のプロ自転車界の闇をほぼ表現している。今のプロ自転車競技界は、いわゆるPro Tourとプロチームとを一緒にして考えるべきであろう。ご存知のとおり、プロチームの一部は、Pro Tourに出走できない選手達を呼び寄せているわけだし。[*2]

Gerolsteinerチームのマネージャ、Hans-Michael Holczer氏は、数日前にWürttembergで開催されたミーティングで、若手選手達に「スポーツにおけるドーピングと対価」という題名で講演を行った。Holczer氏によれば、「決っして嘘をつかないためには勇気が必要だった」という。なぜ選手達がドーピングに走るかという疑問に対しては、次のように語っている。「おそらく選手達は正しいことと間違ったこととの違いが理解できないのであろう。多くの選手達は、精神分裂症的な多重世界に住んでいるわけだ。次世代選手達は、ドーピングなしで競技できることを学ぶことが重要だ。問題は教育や予防措置だけでは解決できない。スポーツの不正は上位から下位に伝わる。つまり、トップレベルのプロ達がしっかりしなければ、問題は存続するし、さらに酷くなるであろう。」 Holczer氏はUCIとドイツ自転車連盟が協力して問題に立ち向かうことを願っている。 「これはおそらく最後のチャンスであろう」(ソースはRadioNews)

Holczer氏の意見に完全に同意する。ただし、彼が自転車界の真の問題について語ろうとしなかったことについては、いただけない。その問題とは、「古参選手達と、その血の掟」だ。

つい最近のことだけど、エリックデッカーが引退インタビューで「選手生活において、禁止薬物を使ったことがあるか」という質問に対し、ものすごく躊躇してから「いいえ」と答えた、という話を聞いた。これにはとても驚いた。

デッカー選手の件は今年の大事件というほどではないけれど、とても典型的な話なんだな。エリックデッカーみたいな人間が、こんな反応をせざるを得ないというのが、彼の住んでいる世界の現実なんだ。

そもそもUCIやPro Tour協議会の最高委員達や、プロチームのマネージャや監督達などなど、この自転車競技界を動かしている多くの人達は、ドーピングに関しては潔白だったとは言えないんだよね。

UCIの前会長は、まともな準備をせずに各チームや選手達に圧力をかけてPro Tourをでっちあげてしまった。また、この前会長は2005年にランスアームストロングが寄付してくれたSysmex血液検査装置を受け入れてしまったことで、UCIの組織の立場を危うくしてしまった。(ソースはCyclingnews.com ある贈り物から利益を得られる人からは、その贈り物を受け取ってはならない。マネージャたるもの、この原則くらい覚えておくべきだろう。

UCIの無学さを象徴する他の出来事には、「いかに何も言わないか」を引き継いだ会長がWADAと繰り広げた無意味な喧嘩の数々があった。そして現実の問題は何も解決されていないのである。

各チームのマネージャ達がちょっとした自己統制すらまともに遵守できない現実を見て、私はとても驚き、悲しくなった。そして、UCIはこういう「なさけない」マネージャ達に本来ならUCIが負うべき責任を押し付けていたのである。自己統制という重要で有効な手段を設定、実践するのなら、自己統制専門のプロを雇えばいいのに。でも、この自己統制という「手段」のことは、もうマネージャ達の頭の中にはないだろうね。彼等の興味は、もっと別な所に移っている。例えば「バッソ事件」に見られるような、Pro Tourチームとプロチームの行動にしか興味はないだろうね。

自転車界において最も権威あるのは、疑いなく、自転車レース界のエキスパート達だ。でも、彼等はどうやったらビジネスをうまく回せるかという知識が決定的に欠如しているのも、また事実なんだな。その結果が、上に書いてきたような有様だ。これは恥ずべきことではないが、歴然とした現実だよ。「鍛冶は鍛冶屋」[*3]

ということで、私の意見をまとめよう。Hans-Michael Holczer氏が語ったように、自転車競技最後のチャンスとして、独立した運営委員会をできるだけ早期に設立することだ。そして、その委員会はビジネスの専門家でのみ運営され、プロ自転車界に関して個人的にも金銭的にも関わりを持たせないことを設立時に明文化し、遵守していくこと。本当のプロ集団には、それほど難しい話ではないはずだ。

これ以外の手段は何をしても失敗に終わるだろう。それは「古参選手達」がこれまで充分くらい実証してきている。

Wim van Rossum - Cycling4all - 20th November 2006

まさにまさにそのとおりだと何度もうなづいて読んでしまった。自転車が速かったからといって、その人に組織運営をさせることにそもそも無理がある。同じことはWADAにも言えるんだろうけどさ。

フロイドランディスが「UCIをぶっつぶす」と言ってるのは、これくらい先読みをしているからなのだろうか。

*1:訳注: OMERTÀについてはWikipediaで調べてね

*2:訳注: Operacion Puertoで名前の挙がった選手達のことであろう

*3:英語原文:Let the cobbler stick to his last