日米事情(2): オフショアとAgile

こちらにいても日本の雑誌を読むことはできる。それらの中にはアメリカにおけるシステム開発事情を取り上げているものもある。それらの記事は嘘ではないけども、極々一部の状況を掘り下げただけだから、そこだけ見て技術トレンドを見極めようとするのは難しいだろう。

オフショア開発

一時期ほどではないけど、「アメリカはシステム開発をインドにオフショア移転しちゃった。日本は英語が苦手だから同じ漢字でコミュニケーションをとれる中国を使うしかない」みたいなことを信じている人は未だにいるようだ。最近では日経BP顧客主導で進むオフショア化 差し迫る脅威を好機とせよなんていう記事がでていた。

インドや中国におけるITアウトソーシングの脅威を感じているのは、もはや米国のエンジニアだけではない。

という書き出しで始まるんだけど、これは現実とは乖離している。日米の差でも書いたけど、米国企業のIT部門はインハウスでも開発できる姿勢を基本においている。アウトソースしたり、さらにはオフショアに出したりしちゃうのは「あまりにも付加価値がない」仕事だけだ。既存システムの保守とか、機能追加変更のないシステム移行(マイグレーション)とかは、どんどんオフショアに出すだろうし、その企業の本業とは無関係なシステム(人事、給与、会計、、、)なんかもアウトソースするだろう。

ただし、その企業の存在意義や基本戦略の成否を左右するようなシステムの場合は別だ。基本はインハウスにおくし、開発パワーが不足すれば地元で人を集める。もちろん、海外から有能なエンジニアを集めることも選択肢に入っている。

インドや中国におけるITアウトソーシングの脅威を感じているのは、「実力のないエンジニア」であって、「実力あるエンジニア達」はちゃんと国内で就職し、それなりの報酬を得ているわけだ。[*1]

Agileの静かな台頭

じゃあ、「実力あるエンジニア」は何をするのか? それは企業のビジネス変化を後押しするシステム開発だ。良い品質のシステムをより短期間に開発し、しかもその企業のビジネス変化に追い付くように効率よく保守していく。これは意思決定者と開発者が密接に意思疎通しないと無理な話で、Agile開発が得意とするところだ。

だけど、Agile開発はあまりビジネス雑誌では取り上げられない。なぜならAgileは基本的にインハウスの出来事だからだ。Agile開発を専門とするシステム開発企業がどど〜んと伸びているのではなく、インハウスの開発部門が作り方を変えているだけ、ということになる。別にシステム開発を専門としている会社ではないから派手なプレス発表も宣伝もしない。内部での改善なので、投資家も動かない。だからビジネス雑誌記者の目にもとまることはない。

でも、そのAgile開発の普及度を見る方法はある。求人サイトだ。Careerbuilder.comあたりでAgileというキーワードを入れてみるとよい。軽く800ほどの求人が見つかるはずだ。そして、この数はオフショア開発管理での求人数と同じか、少し多いくらいだ。最近では流通業でのAgile開発求人が目立つ。各大手スーパーはシステム面でのテコ入れを始めているのであろう。

日本はどうだろうね

アメリカの場合、インハウスに基本を置いているから、Agileにしたりオフショアにしたりする判断ができるけど、日本の場合はどうだろう。まさか「雑誌でオフショア開発っていってるから、オフショアに出そう」なんて考える経営者がいるとは思えないけど...いや、いるかもね...ああ、いるなぁ orz

日本の老舗企業の多くはIT=アウトソースと、単純に決めてきちゃったから仕方ないのかも。アウトソースという選択肢が「高い国内」と「安い海外」なら「じゃあ、安いほうで」となっちゃうのだろう。そこには品質とか、変化への追従速度とか、企業の経営にとって重要な要素がごっそり落ちてしまっている。

このあたり、老舗の大手企業よりは新興企業のほうが柔軟に判断するんだろうなぁ。

*1:日本に比べると安いけどね...