てんこもり救済策(Housing and Economic Recovery Act of 2008)

土曜日に上院での決議を通過した「Housing and Economic Recovery Act of 2008」。

元々は借手救済(Housing Reformという名目の金融機関救済)で議論されていた感じがしたけど*1、例のGSE危機説が流れてからは「GSE救済法案」みたいな雰囲気になり、出来上がってきた法案は下記リンク先にあるとおり。

全部で670ページ以上。

Housing Reformとして議論されていた間、ブッシュ大統領は「拒否権発動を辞さず」という態度を貫いてきた。が、その態度が明確に変わったのは、法案が「GSE救済」の色を濃くしてからだ。実際、Housing Reform関連については10月1日施行だが、GSE救済に関しては大統領の署名があり次第有効となるらしい。*2 それくらい緊急を要する話だったのか。それとも、最初からGSE救済を念頭に置いていたのか。外野には知りようがない。

そして、法案名「Economic Recovery」にあるとおり、別に中身は住宅ローン問題やGSEに限ったものではない。自動車メーカークライスラー救済を念頭に置いた項目も盛り込まれている。*3

つまり、てんこ盛り。

で、何が目的だったんだっけ?

返済が不能になった借手や、回収が不能になった貸手を公正に整理し再出発する手段として、ForeclosureとかBankruptcyとかLiquidationとかが用意されている。 もちろん、これらの手順は痛みを伴う。 借手は家を失うし、貸手は債権を失う。 でも、これらの家や債権を「お買い得価格」で買い取れる投資家は、新たな経済成長の過程で富を築くことも可能だ。 つまりは「富の移転」。 その「富の移転」を避けるための法案こそ、Housing and Economic Recovery Act of 2008ではないか?

TITLE IV―HOPE FOR HOMEOWNERS

394ページから掲載されている「TITLE IV―HOPE FOR HOMEOWNERS」をパラパラと読んでいるのだけど、

  • 借手は無制限に救済されるわけではない
    • Defaultした人は救済されない
    • 嘘ついてローンを組んだ人は救済されない
    • Debt-to-Income Ratioが最低31%なければならない(DTI上限は、この法案からは読み取れなかった)
    • 借入残が、時価評価額の90%を越えてないこと

→いわゆる「徳政令」的な法案ではない。

  • 元本減免
    • 条件を満たした借手はFHAの30年固定ローンに借換えできる
    • その際、現行貸手は「現在の評価額の90%まで」貸出額を減額する必要がある。差額はWrite-Down。
    • 将来、住宅価格が値上りした場合、その値上り分はFHAと貸手が山分けする

→こういう「持家」に住む人は、どれくらい資産価値向上(あるいは維持)に情熱をかけることができるのだろう? 「30年間縛りで、ずっと家賃を払い続けたら以後タダで住める賃貸」と何が違うの? 資産価値を向上させる努力をしないのなら、最終的には家の価値は下がる一方では? で、結局のところ、国(納税者)も現行貸手も損を抱えて終わるだけではなかろうか。 だったら、最初からForelcosureにしておくほうがいいのでは?

予想される混乱

この法案はあくまでも「大枠の規定と、それに必要な現行法案に対する修正」であり、細かい部分はこれから詰めていく事になる。

(c) ESTABLISHMENT AND IMPLEMENTATION OF PROGRAM REQUIREMENTS.―
(1) DUTIES OF THE BOARD.―In order to carry out the purposes of the HOPE for Home owners Program, the Board shall―
(A) establish requirements and standards for the program; and
(B) prescribe such regulations and provide such guidance as may be necessary or appropriate to implement such requirements and standards.
(2) DUTIES OF THE SECRETARY.-In carrying out any of the program requirements or standards established under paragraph
(1), the Secretary may issue such interim guidance and mortgagee letters as the Secretary determines necessary or appropriate.

法案そのものは今年の10月1日施行だが、上記にあるようにRequirements(要求定義)、Standards(標準)、Guidance(手引き)などは別途定める必要がある。もちろん、それらから導出される文書類(申込書の類)の整備や、業務フローの検討と確定、さらにはコンピュータソフトウェアの開発も待っている。これらが10月1日までに間に合うのか? Housing Wireの記事では、「2009年半ばまでかかるのでは」という見方を紹介している。 こういうお役所システムだと要件定義だけで半年かかることは珍しくないから、2009年半ばという見方は大げさではないだろう。それまでの間、返済に窮している(あるいは返済不能に陥った)借り手をどーするんだ? という疑問は残る。

あとは...不動産鑑定士(Appraiser)にかかる負荷。今でも充分忙しい人達なのに、新法案になったらさらに忙しくなる。ここ(鑑定士)が全体のボトルネックになるのは容易に想像できる。

ちうことで...

  • GSE救済については...Paulsonに一任ということなので、まあどうでもいい
  • 肝心の住宅問題については、今まで同様「やってますよ」というポーズだけで実質はあまり効果がない、というアレを繰り返すのではないか
  • で、引き続き住宅価格下落とForeclosureの津波は続く、と