はるまげ丼

金融危機への対抗策が財務省Fedを中心にして検討されているらしい。

ロイター: 米財務長官、資産問題解決に向け追加で数千億ドル必要と表明

連邦政府は、金融機関を圧迫し経済を脅かしている流動性の低い資産を除去するプログラムを導入する必要がある。問題のある資産に対するこのプログラムは適切に作成され、最大限の効果をもたらす規模でなければならない一方で、納税者を可能な限り保護する内容でなければならない」と語った。

問題のある資産を、納税者を可能な限り保護しつつ、適切な価格で処理する手段とは?
答: 破産処理

Luigi Zingales教授の「Why Paulson is Wrong(PDF)」より引用:

If banks and financial institutions find it difficult to recapitalize (i.e., issue new equity) it is because the private sector is uncertain about the value of the assets they have in their portfolio and does not want to overpay. Would the government be better in valuing those assets? No. In a negotiation between a government official and banker with a bonus at
risk, who will have more clout in determining the price? The Paulson RTC will buy toxic assets at inflated prices thereby creating a charitable institution that provides welfare to the rich—at the taxpayers’ expense. If this subsidy is large enough, it will succeed in stopping the crisis. But, again, at what price? The answer: Billions of dollars in taxpayer
money and, even worse, the violation of the fundamental capitalist principle that she who reaps the gains also bears the losses. Remember that in the Savings and Loan crisis, the government had to bail out those institutions because the deposits were federally insured. But in this case the government does not have do bail out the debtholders of Bear Sterns, AIG, or any of the other financial institutions that will benefit from the Paulson RTC.

  • 銀行が自力で資本増強できない(株式発行できない、など)ということは、民間投資家がその銀行の資産価値評価に疑問を抱いている、ということ。民間投資家は無駄な投資を恐れている。
  • 政府は民間より資産価値評価が上手か? そんなことはない。 
  • 政府の偉い人と銀行の経営者が直接交渉したら、資産価値決定に大きな影響力を持つのはどちらか?
  • Paulsonによる新RTCは、銀行が持つ不良資産を本来より高値で買いとることになる。そのリスクは納税者に転嫁される。
  • もちろん、これにより今の金融危機は回避されるかもしれない。でも、いくらで? 
  • 答: 何十億ドルという税金+「利益を享受する人が、損失の責任も負う」という資本主義原則の放棄。
  • S&L危機の時のRTCには理由があった。貯蓄銀行の預金は政府がFDICを通して保証していた。
  • 今回の新RTCは、そんな政府保証など何もない債権を引き受けるのである。

7000億ドル=70兆円

NYTが速報で「救済に必要な金額は7000億ドル」と報じている。

  • 米国民一人当たり、ざっくり2000ドル。納税者一人当たり、ではないよ。老人から赤ちゃんまで、一人当たり、だよ。
  • 今までイラク戦争に使ってきた予算とほぼ同額。
  • 来季予算の赤字は5000億ドルと推定されている。それに加えて
    • AIG救済が850億ドル
    • Fannie/Freddie救済が(今の時点では)2000億ドル
    • 今回の救済策が7000億ドル
    • どーすんのよ...
  • ややこしいことに、大統領選挙投票が目前に迫っている。なので、人気取り政策が、今回の救済策に押し込まれる可能性がある。そのために調整が長引き、救済策が議会で合意されるまでに時間がかかるかもしれない。
    • 民主党の一部は、この7000億ドルに加え、納税者や持ち家保有者に対する保護策を訴えている。景気刺激策や、抵当流れ(Foreclosure)回避策など。
    • 共和党は基本的にPaulson提案に賛成。簡素で速攻、を重視。
    • もちろん、この救済策に反対している勢力もいる。元MLB選手のJim Bunningなど。

先週の株価を見れば分かるけど、市場は明らかに資産価格再評価&金融機関の淘汰を促している。政府介入により、その動きを先送りすることは不可能ではないだろう。でも、「これは米国民皆さんの富を守るための措置なんです。すいませんが、一人当たり2000ドル払ってください」と言われてもねぇ... 米国民一人当たりの平均貯蓄額は既にマイナスなのだよ...

Asset Class Deflation vs Dollar Devaluation

Asset Class Deflation vs Dollar Devaluationという説がある。米国の資産価値(株とか不動産とか)は、ドルを切り下げることで高値を維持してきた、というもの。逆にドルの価値を上げるには、資産価値を下げる必要がある、ということになる。

  • 救済策発動で株式市場は反転するけど、ドル暴落。世界経済混乱
  • 救済策発動せず、株式市場暴落で世界経済は混乱するけど、ドル基軸体制は守られる

なんて妄想をしてみた。市場という民主主義を、一握りの政治家と官僚が制御できると期待するのが間違いなんだよ...

追記