統計数値だけで見ると判断を誤るというお話

Bay Area home sales improve, price drop slows: DataQuick reports market nearing price bottom

  • シリコンバレー近辺における住宅販売件数が上昇し、価格下落の勢いも弱まってきた、という報道。
  • 「住宅市場の底は近い」という副題。

the drop in the median price for a home, from $295,000 in February to $290,000 in March, was significantly less than in previous months, indicating that the market might be near its price bottom, according to MDA DataQuick, a San Diego-based real estate information service.

  • 注意したいのは「median price」での比較、ということ。
  • median price=中心価格帯。
  • Mr. Morgageがこのあたりを冷静に分析している。

March Final Loan Default Wrap-up

  • 「中心価格帯が上昇している」のと「住宅価格が上昇している」のとは話が違う。
  • 今までは破綻した低所得者層向けサブhttp://d.hatena.ne.jp/masayang/draft?epoch=1241015572プライム物件が大量に市場に放出されることで中心価格帯を押し下げていた。これらは元々が安いのだ。
  • 最近は、非サブプライムの「元々は高価だった」物件が、抵当流れ手続きを経て市場に放出されつつある。
  • 結果として、中心価格帯はサブプライム中心の時より高めになってくる。
  • で、これから非サブプライム系のDefault〜Foreclosureが急増するのは確実。

Fannie Mae Creates Housing Mirage With Bum Loans(連邦住宅抵当公庫はクズローンで住宅市場に蜃気楼を作っている)

  • 連邦住宅抵当公庫は昨年秋にForeclosure防止活動の一環で「Homesaver Advance」という「融資」を行った。
  • 返済が苦しい借り手71000件に対し、平均$6,500を無担保で融資。総額4億2600万ドル。
  • その債権を連邦住宅抵当公庫は「1ドル当たり1.7セント」と評価している。
  • つまり、ほとんど貸し倒れになると連邦住宅抵当公庫自身がわかっている。→無担保かつ抵当権が低いので。
  • が、このHomesaver Advanceで「融資」を受けた借手たちは、少なくとも半年〜1年はForeclosureに追い込まれずに済む。
  • これらの借手がForeclosureに追い込まれたら、連邦住宅抵当公庫は24億ドルの損失を計上する必要があったので、4億2600万ドルの「融資」が貸倒れに終わっても安い買い物になる、ということ。
  • 問題は、Homesaver Advance資金が尽きた借手がどういう行動にでるのか、ということ。
  • 元々返済が滞っていたわけだし、その後の景気後退で収入は減っているはず。
  • 普通に考えて、彼らはForeclosureに追い込まれる。71000件のPrime層が、だ。
  • しかも、Homesaver Advance分だけ債務は増えていて、担保物権価格はさらに下がっている...
  • 追い貸しは無駄なのだ。

Mr. Mortgage: CA Foreclosures About to Soar…Againより

  • カリフォルニア州は昨年秋にForeclosure抑止政策SB1137を施行している。
  • これはForeclosure手続きの過程であるNOD(Notice of Default)やNTS(Notice of Trustee Sale)を一定期間猶予する、というもの。
  • 猶予期間中に住宅市場が回復するとでも思っていたのかね?*1
  • で、このSB1137は3月で切れた。
  • NOD〜NTS〜競売、という流れは約2ヶ月を要するので、5月あたりからForeclosure競売は激増する、というお話。
  • そのカリフォルニア州Foreclosure予備軍は、先に紹介したMarch Final Loan Default Wrap-upにて分析されている。以下、3月の数値。
  • サブプライムのDefault...収束へ。
  • Alt-AのDefault...一定速度で増加中。前年同期比11%増。
  • Pay Option ARM...猶予期間中のWachovia物件を除いても急増中。前年同期比40.7%増。
  • Jumbo Prime...件数は少ないが、大型ローンを組むのが難しいので厳しい状態。前年同期比8.8%増。
  • $75万を越えるローンのDefault...急増中。前年同期比倍増。
  • Fannie/FreddieのローンDefault...急増中。前年同期比48.3%増。
  • Defaultしてから2ヶ月以内にForeclosureになる可能性が高いから、5月以降にForeclosureが急増するのは確実。
  • って、今月じゃん(笑

まとめ

低価格帯サブプライムは収束したので、今後のForeclosureはやや価格が高めの層に移動する。結果として、「中心価格帯」も上昇するけど、これで住宅市場が回復したと思ってはいけない。まだまだ物件は出てくる。買いたい人はあせる必要なし。

*1:おそらくは、大統領選挙期間中にありがちな「ばらまき政治」の一環だったのであろう