4-3. デフレに関する誤謬その3:Fedは原材料価格に注目すべきである

4-3. デフレに関する誤謬その3:Fedは原材料価格に注目すべきである

供給側経済学者による反デフレ論三番目は、Fedが「ほどよい」政策を実施する際の行動指針を主張するものである。Fedは原材料価格に注目すべきだ、というものである。Richard Rahnによれば「Fedは物価動向の最適化を目標としていることを再度明言すべきであり、その際消費者物価などの遅行指標ではなく、原材料価格に焦点を当てるべきである。すなわち、Fedは原材料のバスケット指標を見るべきであり、原材料価格が一定値を越えて上昇したら引締め策を実施すべきである。反対に原材料価格が下落したら、緩和策をとるべきである。」とのことだが、残念ながらこの手段は時として劇的なインフレを引き起こすことがある。前にも述べたように、景気後退時や金融危機時には原材料価格と消費者物価は正反対の方向に動く。例えば97-98年のアジア金融危機で生じたような原材料価格低下に対して、このような対処を単純に適用すると、既に高水準にあった通貨供給率の伸びをさらに高め、インフレを昂進させることになる。2002年2月初旬におけるDJ-AIG Commodity指数は、1991年より10%下落しており、1年前と較べても20%低下している。2001年1月から2002年2月まで、流動性預金(MZM: Money of Zero Maturity)は19.5%伸びており、AMS(オーストリア通貨供給: 筆者が知る限り、米国の通貨供給量を示す最も正確な指標)で見ても2001年は12.3%伸びている。このような状況下で、通貨供給量の伸び率は心配無用と主張する供給側学者達の言いなりになって、Fedが原材料価格を10-20%増加させるような資金供給を行ったら、経済はハイパーインフレに突入しかねない。一方で消費者物価指数(CPI)は2001年10月に微小な減少を見せた後、11月は横ばいでしかない。そしてCPIは1年前と較べると1.6%増加している。このような状況に対処するためにハイパーインフレを招きかねない政策を主張する嫌デフレ派は、限度というものをわかってないのか?

供給側派が嫌デフレに毒された唯一のマクロ経済学派というわけではない。マネタリズム派の大御所Milton Friedmanは「9-11事件後の経済収縮を考えると、現在の通貨供給伸び率10%というのは持続可能かつ望ましいものである」と語っている。近代ケインズ派共和党とのつながりが強いAmerican Enterprise InstituteのJohn H. Makin研究員は、2001年10月のPPIが落ち込み、かつ、2001年9月から11月にかけてのインフレ期待値が減少したことから、今の景気後退を「デフレ的だ」と断言している。さらに「インフレ率およびインフレ期待率が低下するよりすばやく、Fed金利を下げざるを得ない。このようなデフレ的景気後退に対処するには、実質FFレートはゼロ、インフレ期待値は1%以下、実質金利をゼロにするには名目FF金利が1%である必要がある」と述べている。Makinは恐怖症だったらしく、ゼロ金利ですら自身が想像しているデフレを退治できないと考えたらしい。ブッシュ大統領による景気刺激策-今となっては死んだ法案だが-の拡大を求め、さらには民主党までばら撒き政治に加担するよう呼びかけていたくらいだ。Makin曰く、「大統領は景気刺激政策の規模を2000億ドルまで増やす必要がある。うち、1000億ドルは民主党主導の歳出増加で、残りの1000億ドルは共和党主導の減税にするべきだ」

  • コモディティ価格と消費者物価とは反対の方向に動くことがある。
  • コモディティ価格が下がっているから「デフレだ! 利下げだ!」と動くと、むしろインフレを煽る結果になりかねない。