へそ曲がりのための経済学:転嫁理論(Imputation)と消費税段階的増税

転嫁理論

転嫁理論というのがある。Wikipediaによれば

In economics, the theory of imputation, first expounded by Carl Menger, maintains that factor prices are determined by output prices.

  • 産出価格(Output Price)が要因価格(Factor Price)を決める、というお話。
  • 要因価格(原材料価格や製造人件費等)が最終的な製品の価格を決めるのではなく、最終的な販売価格に合わせて原材料価格や製造人件費等が調整される、ということ。
  • 需要が落ちこんだ景気低迷時に「原材料費高騰のため、製品値上げします」なんてことやったら、その製品はさらに売れなくなる。
  • 落ち込んだ需要にも対応するべく、できるだけ安く売れるように企業側が努力する。結果、企業は安い原材料を求め、効率的な製造や物流を組み、人件費を削ろうとする。場合によっては製造拠点を安い国に移しちゃうこともある。

消費税を段階的に上げていく?

池田信夫氏が消費税の段階的増税をという記事を書いている。その根拠は消費税が5%に変更された97年の駆け込み需要らしいのだが、

したがって、たとえば「消費税率を2020年まで毎年1%ずつ上げる」と決めれば、一種の人為的インフレを起こすことができ、消費が刺激されます。

残念ながら、人為的インフレもおきないし、消費はむしろ抑制されるだろう。

  • 消費税がかかる対象の全てが駆け込み需要に対応できるものではない。食料とか、燃料・光熱費とか、床屋・美容院とか...
  • 大物消費については駆け込み需要があるかもしれないが、1年後に6%、2年後に7%、さらに8%...となるのであれば、普通は「今買う」選択をするでしょ。
  • 生活必需品やサービスにかかる消費税が確実に上昇していく、とわかっているのであれば、
    • a) その分、他の消費を減らして貯蓄に回そうとする。
    • b) あるいは、値段の低い製品やサービスを求める。
  • 前者は消費減退に直結。
  • 後者は前述の転嫁理論によって、企業の収益を圧迫するか、製造拠点の海外移転につながる。
  • つまり、消費税率の段階的引き上げをしても、池田氏が主張する「人為的インフレ」にはつながらない。むしろデフレの長期化につながるだけだろう。
  • 小手先の逃げに走らず、一気に20%!と宣言しちゃう方が、収束は早まるのではなかろうか。

値上げではデフレは解決しない

  • へそ曲がり(Contrarian)のための経済学: ニューディール政策が大恐慌を悪化させた、で紹介した記事にも書かれているけど、デフレ下で物価や賃金を上げようとする政策を取ると、事態はかえって悪化する。
  • 段階的な消費税上げでインフレが起き、それでデフレが解決するのなら、どの企業も「明日から毎日1%値上げします」と宣言して実行すれば良いではないか。
  • 1%である必要もないね。「毎日価格を倍にします」とかどう?