システムのコストを下げる vs システムでコストを下げる
今回の出張でもお客様から直接話をうかがったり、同業の皆様達との情報交換で色々な現場の状況が見えてきた。
クラウドという言葉の引きは強いが、そこにある期待は「システムコスト削減」が中心。正確にはシステム「の」コストをクラウド活用で減らそう、というもの。
もちろん、コスト削減は重要だよ。年間1000万円の節約は、利益率5%の企業なら2億円の売上増と同等だ。
だけど、このようなコスト削減は持続的な成長にはつながらない。今季1000万円節約できたから、来季もさらに1000万円削ろう、などという作戦は長続きしないのだ。企業に求められるのは持続的な成長力のはずである。
では、なぜこのような「システムのコストを削ろう」という発想が出てくるのであろうか。
そもそものシステムを導入する理由は以下のいずれかの筈である。
- システム導入「で」無駄なコストを削減する。
- システム導入「で」新たな付加価値を生む。
- なんだかよくわからない。*1
三番目は論外として、1ないし2を目的として導入されたシステム「の」コスト削減が議論の俎上に乗っかるのなら、それはそのシステムの現状が本来の目的に合ってない、ということである。
本来の目的に合ってない以上、そのシステムをクラウドに置くとか、SI屋に無理を言って運用保守費を下げさせるとかいう短期的対処をとっても、やがてどこかで問題は再燃するはずである。「このシステム、高いよ」と。
つまり求められる対処はシステムの作り、あるいはそれを使う業務の設計、もしかしたらその上に存在する経営戦略の見直しであり、それらは単純なクラウド環境移行で実現されるわけがない。
そういった「考え直し」を拒んでいる最大の理由は、現行システムという「資産」の存在である。償却期間が存在する以上、安易にシステムに手をいれるわけには行かない。結果として、その「資産」となった現行システムの設計に着手した時点における「誤った判断」は放置されたまま、「高い〜 高い〜 高いからコスト下げろ〜」とシステム担当が詰められる。システム担当はGoogleでクラウドでコスト削減等と検索して、目先のシステムコスト削減にやっきになる。
こんなところなんだろうね。
クラウドを使えば、データセンターに置く機器を資産化しなくて済むようになる。後はその上で動かすソフトウェア「も」資産ではなくサービスとして使えるようにすれば、上記のような「誤った判断」に対する軌道修正が可能になる。
結果として「一時的な1000万円削減」ではなく、「継続的な1000万円付加価値の創造」も可能になる。もちろん、その場合にはシステム開発担当者に継続的に300万円/月くらい払っても株主は文句を言わないであろう。
結果としてクラウド以降によりシステム費用は増えるかもしれない。だが、それ以上の付加価値を生み出せるような経営戦略・業務設計の作り替えができれば、それは安い買い物なのであるし、IT活用とはそもそもそういうものであろう。クラウドは、そのような「柔軟なIT経営戦略」に有利な基盤なのである。そしてクラウドを担ぐシステム屋は「柔軟なIT戦略を具現化するサービス」を定常的に提供することが求められるようになる。一発受託開発に未来はないのだ。
一方、このような経営戦略や業務設計の見直しという努力をせずに、近視眼的なシステムコスト削減に走るのであれば、その先に待っているのは不毛な縮小均衡しかないであろう。今回自分が見聞きした現場の多くは、こちらに属すようである。
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*1:役所に多い