本当に破産が必要な人が破産申請できない米国

もう死んじゃった政治家だけど、「黒人なんか破産したってあっけらかんのカーだ」なんて発言して問題になったことがある。差別発言だ、みたいな例の突っ込みがはいったわけだけど、「破産したってあっけらかんのカー」の部分が彼の発言の要点であり、かつての米国では「借りまくった挙句、破産を選ぶ」という個人破産の乱用が一部に見られたのは事実。

Wikipedia日本の連邦倒産法: 2005年改正には

2005年に倒産制度濫用防止と消費者保護に関する法律 (The Bankruptcy Abuse Prevention and Consumer Protection Act) が議会を通過した。これは1978年の連邦倒産法大改正以来の最も重要な改正といわれている。この改正は、主に債権者(金融機関やカード会社)側のロビー活動を受けて成立したものである。この結果、個人破産については、第7章手続を通じて債務者が免責を得ることが以前より困難になり、上述のとおり除外財産にも一定の枠がはめられた。その他の面でも、債務者側に有利な改正が施されている。

と説明されている。これにより、個人破産の申請は困難になり、2005年の「駆け込み」申請200万を峠に、破産件数は急減した。が、昨今の景気後退で破産申請は上昇をしており、今年は170万人に到達する見込みがあるという。その170万でも「実は少ないのではないか。本当はもっと多くの人が破産申請を許されてもいいのではないか」という記事を見つけた。

USAToday: Only a fraction of those in need file for bankruptcy

  • 2005年の破産法改正で、個人の破産申請は難しくなった。
  • 結果、「負債の奴隷」みたいな個人が増えている。
  • 破産法の理念からすると、本来は「一旦債務を整理して、一からやり直しをさせる」のがスジのはず。
  • が、改正破産法により、申請手続きが面倒になった。法律事務所の支援は必須で、手続きが複雑になる分、費用もかさむ。その費用すら用意できない人達なのに。
  • また、政府の住宅ローン返済支援プログラム(HAMP)を申請する人は、破産申請ができなくなるという規定も足枷になった。(今はこの規定は外された模様)
  • 破産法再見直しが早急に望まれる。

一部の人達を規制するために、本来の法律の理念が消し飛んだ事例は枚挙にいとまがない。この破産法もその典型だろう。

上記記事には、心理学で学位を取ったが仕事がなく、アトランタのコールセンターで時給$13しか稼げないCarmen Gardiner嬢(25)が紹介されている。大学を出た時点で学費ローンの債務は$80,000(720万円)。現行法では、民間系学費ローンは破産申請しても債務免除にするのは著しく困難。*1

時給$13なら、毎日10時間・週5日働いても、年収は$31,000どまりだろう。返せない規模の負債ではない。だが、学費ローンを返済し続けることで、彼女は他のモノ・サービスに使える金額が減ることに注意したい。

親の世代がアップアップなので、学費を借り入れて学校に通った世代がこれから社会人になるのである。全員が高給取りになれる保証はない。むしろ、大半は返済に苦しむことになるだろうし、当然財布の紐は閉まったままになる。

かつての消費大国アメリカは、長い長いリハビリ生活が必要なのだ。

*1:学費債務がUndue Hardship: 過度の負担であることを証明する必要がある。法律専攻した人でしか自力で行うのは無理らしい。結局、法律事務所にお世話になるが、お金が無ければできない話。そして無料・廉価で個人破産を支援するような法律事務所は滅多に無い。