バブル醸成で問題は解決したか? むしろ酷くなっていないか?

NYT: Fannie Mae Eases Credit To Aid Mortgage Lending

  • 低所得者層の持ち家取得支援のため、Fannie Maeはローン締結に必要な信用条件を緩和すると発表。
  • 当初はニューヨーク近郊などを含む15の地域で、24の金融機関とともに開始。
  • Fannie Maeは低所得〜中所得層向けのローン発行に消極的と、政権から圧力をかけられている。
  • さらに金融機関はサブプライム層向けのローンを引き受けるようにFannie Maeに要求を強めている。

→実はこれ、1999年9月30日の記事。低所得層の持ち家推進圧力をかけ始めたのはクリントン政権だったのね。そしてサブプライムローンを乱発するための下地はこの頃から固まってきた、と。

You Walk Away Blog: Smoking Gun – The Ones That Gave & Took Away Your Equity

ローン返済放棄を支援する団体You Walk AwayのCEOが書いてるブログ。この記事では、2001年当時の住宅政策への警告が紹介されている。

まずは「頭金のないローンは、ただの借金付け借家でしかない」というJoshua Rosner氏の警告

  • これまでの頭金20%という基準が、頭金ゼロになってしまった。
  • 低所得層を対象にした積極的貸し出し
  • 中〜高額物件のローン保障料値下げ
  • ローン新規発行や借り換え・条件変更におけるソフトウェア活用の普及→乱用することで、延滞をごまかす風潮の発生。
  • 物件査定手続きの変更。これにより、高めの金額に査定されることが増えた。

→これらの条件が重なって、住宅市場にバブルが発生することをJoshua Rosner氏は指摘している。

The virtuous circle of increasing homeownership due to greater leverage has the potential to become a vicious cycle of lower home prices due to an accelerating rate of foreclosures.


積極的な借り入れを活用した持ち家推進政策が生む(住宅価格上昇という)好循環は、フォアクロージャー率加速による住宅価格下落という負の循環に陥る可能性を持っている。

Over-appraisal creates a false market and risks increasing the debt of both homebuyers and refinancing homeowners. This economic risk is magnified in the event of a layoff or other adverse economic shock. Real estate price declines would make it even more difficult for the “owner” to access trapped home equity.


物件が高めに査定されることにより市場は正常な状態ではなくなり、新規購入者にもローン借り換えをする人達にも過大な借入れを促すリスクを生み出す。雇用減少やその他の経済的ショックでこのリスクは拡大されることになる。住宅価格の下落は(債務過多に陥った)「住宅保有者」が、含み益を使った資金調達をいっそう困難にさせることだろう。

Ironically, research conducted by Freddie Mac has concluded, “that low down-payment loans pose legitimate concerns for lenders because they are known to trigger greater losses than loans with a larger equity cushion” The research also showed that delinquencies and defaults mount when several underwriting standards are eased at the same time. Put simply, a homeowner with little or no equity has less reason to maintain his/her obligations.


皮肉なことに、Freddie Macの研究は以下のように結論付けている。「頭金比率の低いローンは貸し手にとっても重大な関心事項となっている。これらのローンは、十分な頭金を積んだローンよりも破綻時に大きな損失を引き起こすからである。」またこの調査では、さまざまな貸し出し基準が緩くされると延滞や不履行が増加するということも予測している。含み益が少ないか、債務超過に陥った借り手にとっては、その家を保有し続ける意味はほとんどないのである。

→2001年には警告が発せられていたし、Freddie Macもこのリスクを十分理解していた。

同記事では、Fannie Maeによる「延滞隠し」の実態も紹介されている。繰り返すが、2001年の話。

Fannie Mae’s “Home-Saver Solution” software, which was introduced to the market in 1997 and has been increasingly marketed aggressively to servicers/lenders, is already distorting the foreclosure numbers. The number of loans, since 1997, which were in pre-foreclosure and then ‘worked-out’ (not foreclosed) has increased from 35% to 42% to 51% to 2000’s 53%.


Fannie Maeが使っているHome-Saver Solutionというソフトウェアは1997年に導入開始され、以降貸手や債権回収業者を対象に強力に普及していった。Home-Saverが普及していくことで、フォアクロージャ件数はごまかされることになった。1997年以降2000年まで、Pre-Foreclosure(NODなど)からWorked-Out(フォアクロージャ回避)となった件数比率は35%, 42%, 51%, 53%と増加している。

in Freddie Mac’s Bulletin 98-9, that the lender/servicer is only required to record, let alone report to the GSE, that the loan was modified if the ‘mod’ is $15k or more, the original term of the loan is extended by 7 years or more or that the interest rate is increased.


Freddie Macの98〜99年資料によれば、貸手がローン変更を報告する義務があったのは、貸出額変更が15000ドル以上になる、ローン期間延長が7年以上、あるいはローン金利が上昇する場合だけであった。

→Work-out(フォアクロージャ回避)率が上昇しているのは、主に7年未満のローン期間延長による借り手負担軽減を活用していたのではないかと思われる。いずれにしても、2000年には結構な率で延滞が生じていたのは確か。

We strongly believe that foreclosures in our current housing structure are a necessary and healthy market event as they move homes from weak hands to stronger ones. Interventions to prevent foreclosure reduce supply and, therefore, increase home prices. While it may be argued that modifications are a service to the “homeowner”, we have been unable to find data detailing the longer-term relapse rates of modified loans. If those borrowers were to relapse and eventually default the cost to those homeowners would have been lower had they not been modified in the first place.


フォアクロージャは所有権を脆弱な層から強固な層に移管することで、健全な住宅市場を形成すると確信している。フォアクロージャを抑制するような市場介入は供給を減らすことになるので住宅価格上昇にはつながる。一方で、物件「所有者」に対するローン条件変更がどのような影響を与えるかについては議論を重ねる必要があろう。ローン借り換えをした層が再度返済困難に陥る確率がどれくらいなのか、我々は十分なデータを持ち合わせていないのだ。ただひとつ確実に言えるのは、借り換えをした層が再デフォルトするような事態に陥ったら、借り手が抱える損失は借り換えをしなかったときより増えているであろう、ということだ。

Diane Westerback, S&P’s managing director of global surveillance analytics, told SNL that the previously reported 30% to 40% redefault rates typically only count borrowers after two or three months of payments. A year after the modification, Westerback expects redefaults to hit between 60% and 70%.

S&Pの調査によれば、借り換えによる再デフォルト率30-40%という数字は二ヶ月〜三ヶ月いないのもので、1年後の再デフォルト率は60〜70%に上るといわれている。

→2001年にこれだけ言われていたのに、結局金融・住宅業界は予測されていたとおりのヘマをやらかしたわけだ。まとめると

  • クリントン政権の頃から持ち家促進の動きは始まっていた。
  • 住宅購入層を増やすため、中〜低所得層にもローンを活用しやすくできるよう、頭金やローン保証料を下げる動きが広まった。
  • またローン発行・借り換えの効率化を支援するソフトウェア導入が促進された。
  • 住宅査定手続きもかわり、住宅価格は高めに評価されるようになった。
  • 一方で、頭金をさげた結果、ローン借り手は支払いが困難になると安易に返済をとめる風潮がでてきた。
  • 延滞は増えたが、記録に残らない範囲でローン借り換えを進めることでフォアクロージャ率は低めに推移できた。
  • だが、借り換えをしても再デフォルトする確率は1年後には60-70%に上っていた。

こういう状態からさらに住宅バブルを膨らますことで問題はいったん解決したようにみえたが、その住宅バブルが崩壊した今、アメリカが抱える債務は増えてしまった。バブルで問題を解決することはできないし、むしろ問題を広げることになるのである。