日経の短期連載「企業とIT 問われる投資効果」を読んで
日本で滞在していたホテルでは毎朝紙媒体の日経新聞が届けられた。滅多に読めない代物だったので、片っ端から念入りに読んでみた。目を引いたのは「企業とIT」という短期連載。12月13日〜15日までの上・中・下構成。各企業でのIT投資失敗(あるいは工夫)が列挙されているだけで、何が言いたいのかよくわからん連載であった。以下、まとめ。
上(12月13日)
見出しは「丼勘定 もう認めない」「東ガス、3段階の厳しい壁」「システム投資 事後評価は半数」となっていて、以下の事例が紹介されていた。
中(12月14日)
見出しは「自前主義 こだわらない」「ヤマダ、払いは売上高連動」「IT投資に12兆円 中堅中小、重い負担」
- ヤマダ電機の基幹系システムはIBM資産。そして利用料は売上高連動になっている。最小投資額で最大利益、というのがヤマダ側の自慢。自前にすることで発生するリスクも回避できる。
- 日本郵政のCRMはSalesForce(SaaS)。仮に自前開発だったら初期投資25億円+利用料が5億/1.5年だったが、SalesForceなら2.5億円/1.5年で済む。
- リクルートはシステム運用委託先への料金を時間課金ではなく、作業量課金に変更。それほどの節約はできていない模様。
- IDCジャパンの調査によれば2006年の国内IT投資額は12兆円。従業員1000人未満の中小企業における投資は年間3.7%と高めになる。
下(12月15日)
見出しは「コスト疑い筋肉質に」「野村、サーバー眠らせず」「IT化での生産性 51%『かわらない』」
- 9月に横浜で「北京ソフトウェア企業商談会」ってのが開催され、にぎわった
- ぴあが来年1月に稼動させる次期チケット発券システムは180人の中国人SEを活用し、開発費を2〜3割削減。本業で二期連続赤字のぴあとしてはシステム開発費を減らす必要があった。
- 野村證券はサーバーのグリッド化を実現させることで、余剰CPUを活用。従来一ヶ月かかっていた金融商品の開発が1日まで短縮される可能性も。
- アクセンチャの調査によれば、IT投資で生産性が向上したと回答した企業は米国が79%で、日本は51%にとどまる。
以上、焦点がはっきりしない連載であったが、以下自分なりに斬ってみる。
投資効果は投資額と効果だけではないよね
例えば500億円投資のシステムがあったとする。5年5%償却なら、月額あたり9億4300万円。仮に運用コストがゼロだったとしても、このシステムは月額943万円の粗利相当額をたたき出す必要がある。そうでなければ、こんなシステムを開発する意味はない。
そして、このシステム投資を(東ガスの事例のように)あーでもないこーでもないと事前にぐちゃぐちゃ検討するということは、毎月(最低)943万円の粗利相当金額を闇に葬る、ということだ。機会損失ってやつね。
もちろん、機会損失だから企業の帳簿に載ることはない。株主も知る由もない。でも、儲ける機会を確実に失っているのは事実。
「わが社はシステム開発投資の検討を念入りに行うようにしました」なんてことを真顔で言ってのける経営者がいたら、その企業の株は売り払ったほうがいい。
あと、三回の連載中、「より短期間で利益を上げる」ことに言及しているのは野村證券の事例のみ。それも、グリッド化が成功したら、金融商品の開発が短期化されるかも、ということ。グリッド化に何年もかけているようでは意味はないですぜ>関係者
IT投資がもたらす生産性向上
米国が日本より大きい効果を出しているのは当然。IT化することで社員のクビを切れる。IT投資投入額よりも多くの固定費・変動費削減につながれば、生産性は確実にあがっていることになる。
日本は首切りご法度な状態で無理やりIT化するから、ややこしくなる。極端な例では、個々のシステムを人間が手書き伝票でつないでいくとか。
リスクに関する考察がないね
上編でのJCBや東ガスの事例は、例によって「要件定義とプロジェクト計画が不十分だった」的なまとめで終わっているが、問題の本質はそこではないだろう。
開発が始まって相当な時間が経過して「すんません、開発が遅れそうです」「すんません、やっぱりできませんでした」という具合に、問題の早期発見が遅れてしまうということが問題なわけよ。時間が経過しているから、それなりの予算を使い切っている。こうなると、引くに引けない。だから、ずるずると前進せざるを得ない。そして、泥沼化。
東ガスの事例は例えば@ITなんかで見つけることができるが、これは事前の机上検証だけで回避できるのであろうか...