債務の破壊(Debt Destruction)

  • カリフォルニア州の住宅ローンはノンリコース。
  • 返済できなくなったら、家を追い出される。だが、それ以上の負債は返さなくて良い。
  • 仮に20万ドルローンが残っている家が差し押さえられ、10万ドルでしか売れなくても、差額の10万ドルはちゃらになる、ということ。
  • が、これはあくまでも「購入時に使った住宅ローン」の話。
  • HELOCなどを使って借換え(Refi)をしたら、通常はフルリコースになる。
  • 6月4日にも書いたが、住宅価格が一本調子で上がっていった2002年以降のカリフォルニアでは、非常に多くの借換が行われた形跡がある。
  • つまりこれらの人達の中には、フルリコースローン債務超過に陥っている人が多数存在している可能性がある。
  • フルリコなので、Foreclosureで家を追われてもさらに債務がついてまわる。
  • だが、HELOCは債権としては劣後であり、その取り立ては裁判所での判断が必要。
  • その裁判所でのやり取りの面倒さを逆手にとり、借手に対して不当な取立てを迫る事例が増えているらしい。
  • けしからん、と議会が動いている。

NYT: Battles in California Over Mortgages

  • 借換えに使ったHELOCでの負債もノンリコにしちゃえ、という法案がカリフォルニア州議会で熱く議論されている。
  • 法案が通れば、2011年6月1日より適用。
  • 法案を推す側の理屈は「公正さ」。大恐慌時代に導入されたノンリコースローンは「家を追われるだけで充分な社会的制裁を受けているのだから、残りの債務は勘弁してやろう」とうい考えがあった。
  • 「だが当時はHELOCみたいな二階建てローンはなかったので、この機会にHELOCもノンリコにしよう」ということ。
  • 同法案に賛同している社会的勢力は住宅販売方面。家を追われてフルリコの債務を背負う人達が再び住宅を買えるようになるのには、長い長い年月が必要になるから。
  • 法案に反対している側の理屈は...やはり「公正さ」。2011年6月より適用になったとして、過去のローンにまで遡及するとなると、契約の概念を根底から覆す話だし。
  • しかも来年6月から一斉にデフォルト・Foreclosureを選ぶ人が激増するのはちょっと考えればわかる話。
  • 金融機関は当然のごとく反対している。

債務の破壊(Debt Destruction)

お金をを借りた債務は「返す」「借り直す」「踏み倒す」以外に道はない。そして、最後の選択肢「踏み倒す」の向こう側には、損を被る誰かが必ず存在する。カリフォルニア州議会で揉めているのは、「借換で生じたフルリコースローンの債務を誰に押し付けるか」に他ならない。

  • (本来のスジである)借手に押し付ければ、その人達は当面住宅市場に戻ってくることはない。買い手不在が続く住宅市場は冷えたまま。
  • ノンリコに変換して、金融機関にかぶらせれば、住宅市場には大量のForeclosure物件が一斉にでてくることになる。しかも金融機関のバランスシートは痛むし、以後の貸出にはさらに慎重になろう。やはり住宅市場は低迷を続けるしかなさそうだ。

紹介したNYT記事にも書かれているが、カリフォルニア州で住宅ローンを抱えている世帯は700万。うち、1/3が債務超過と推定されている。だが、その中のどれくらいがHELOC借換などでフルリコース負債を抱えているのかは不明。

おまけ: HELOCはこんなことにも使われていました♪

  • Down Payment on Equity Line of Credit?
    • これも投資案件の頭金にHELOC使って大丈夫ですかね? という相談スレ。(2007年)→ptiemannというハンドル名の人の回答に注目。HELOCどころか、「クレジットカード新規加入時特典の『2.5万ドルまでなら1年間ゼロ金利』を使って、それを頭金にして家を買う!」などという話を自慢げにしている...この人、その後大丈夫かいな。
  • Invest in Austin with a HELOC
    • HELOCを頭金にして、テキサスのオースティン不動産に投資しようぜ、という勧誘。(2007年)
  • The pain of owning two houses
    • 高値でつかんでしまった一軒目の家のHELOCを使って、二軒目の家のローンも組んだがやっぱり高値掴みだった、どうしましょう、という人生相談。(2010年4月の記事)

上記以外にも、HELOC Down Paymentで検索するとぞろぞろと事例がでてくる。