クラウド市場がそんなに有望なのなら...

ケチ向け無料日経: 「クラウド」で40兆円市場創出 経産省試算

 経済産業省は16日、「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」の報告書を公表した。クラウドに関する制度や基盤を整備することで、2020年までに累計40兆円のサービス市場を創出できると試算。情報処理に関する二酸化炭素(CO2)の排出を1990年比約7%減らすことができると分析した。

 クラウドコンピューティングは、自らはIT(情報技術)機器を所有せずに、ネットワークを通じて顧客管理や会計処理システムを提供する仕組みのこと。

 経産省クラウドを活用すれば医療や教育、電力といった様々な場面で利用者が恩恵を受けられると判断。報告書はそのためにもプライバシーに配慮したデータの利用法や国際ルールといった制度整備や、環境負荷が低いシステム整備、人材育成が必要と提言した。

 創出する40兆円の内訳は医療・健康・介護サービスで15兆円、住宅・家電と家事支援サービスで10兆円、高度道路交通システムと社会資本維持管理で5兆円など。

例によって個々の数字は全く信用しない。Σプロジェクトの時に、「1985年当時、1990年に25万人、2000年には97万人」のソフトウェア技術者が不足すると予測した人達だし。

だけどクラウドが今後のあるべき姿だ、というのは別に経済産業省がお墨付きを与えなくても明確だ。資産の部にたてていたハードやソフトが、費用の部に移る。これは経営者にとってはとても魅力的だ。バランスシートは企業の将来の姿を反映する。大きな資産が乗っていれば、その分企業の動きは制約を受ける。バランスシートは軽いほうが良いのである。

従って報告書のいう「プライバシーに配慮したデータの利用法や国際ルールといった制度整備や、環境負荷が低いシステム整備、人材育成」というのは的外れで、「ハードやソフトを自社資産として保有せざるを得ないような各種規制の見直し」こそが最優先されるべきであろう。*1

「データは自社専用環境に保存して漏洩や紛失がないようにしろ」などという規制はその最たるものでしょ。医療機関の場合は敷地からの持ち出しすらできないという話も聞いた。本当だとすれば、データセンターのラックを借りてそこにサーバを置く、などという選択肢は消えて、自施設内にサーバ専用室を作り、そこにサーバ類を置いて、入退室管理の仕組まで入れることになる。周辺業者は嬉しいだろうけど、そんな仕掛けが日本の全病院にばら撒かれるのであれば膨大なムダだ。

だけど、病院のシステムに関する規制は厚生労働省の管轄だ。縦割り行政の日本なので、同様の込み入った規制は他の省庁にもあるだろう。果たして経済産業省はそこまで踏み込んで「クラウド40兆円市場実現」にむけて動けるのであろうか?

自分が心配している(お役所にありがちな)最悪の筋書きは、経済産業省がこういった省庁間の壁を壊せずに、「自分たちだけでできる範囲」で動こうとすること。結果はこんな先例の繰り返しで、「ひぐまクラウド(仮名)」という誰も使わない代物ができて、日本のクラウド業界は挽回不能な遅れを喫する、というものである。

そうならないようにも、経済産業省には各省庁が抱えている「クラウド普及阻害要因」となる規制を洗い出して、その緩和撤廃に動いてもらいたいなぁ、と。それさえあれば、別に税金投入しなくても市場のお金は自然とクラウド産業に向かいだすでしょ。儲かるってわかっているんだから。

もし既に経済産業省の人たちがそこまで考えて動き出しているのなら、上の書き込みは全て杞憂として片付けていただきたい。

*1:リースや長期契約前提の共同システム利用も実質資産と扱ってよいだろう