大学教育というバブルは弾けるか?

New York Post: The higher-ed bubble: ready to burst?

Imagine a product whose price tag for decades rises faster than inflation. People keep buying it because they're told that it'll make them wealthier in the long run. Then, suddenly, they find it doesn't. Prices fall sharply. Bankruptcies ensue. Great institutions disappear.


毎年毎年物価上昇率を上回る勢いで価格が上がっていく製品を考えてみよう。人々はその製品を買い続ける。なぜなら、それを買っておけば長期的には利益になるから、と聞かされているから。だがある日、そうではないことに気がつく。製品の価格は急落し、破産する人が続出する。大手だったところも消え去っていく。

→ここだけ読むとアメリカの住宅バブルのようだが、実はこれは「大学教育」にも当てはまるのではなかろうか、という記事である。

  • アメリカの就学ローンは政府の補助が入っているので、貸し手は緩い条件でどんどん貸し出せる。
  • 融資が緩いということは、学費もどんどん上がっていく。

→ただし、つぎ込んだ学費に見合った生涯収入が得られないということを受験生が悟れば、この学費上昇は停止し、誰も大学にいかなくなる=大学バブル崩壊

  • Charles Murray氏のようにこの事態を見越して、「大学は一部の秀才層だけのものにし、残りの学生たちは全国共通試験で一定点数を越えることを目指すべきだ」と主張する人もいる。
  • NCES(教育統計局)によれば、単科大学(college)卒業生の多くは語学力や日常の基本的計算に問題を抱えている。
  • カリフォルニア大の調査では、大学生は1961年に週24時間勉強していたが、最近は14時間に減少。
  • ACTA(米国大学理事同窓生評議会)調査では、大学生の多くが文学・歴史・科学などの基礎を習得していないことがわかっている。さらに、多くの大学では外国語習得を必要とせず、経済学を必須としているところは稀で、アメリカの歴史や政治についての授業は「おろそかに」なっており、数学や科学の教育は「まだまだ足りていない」のだという。
  • ACTAのwhatwilltheylearn.comでは、各大学における授業内容と授業料を調べることができる。学生や保護者は、支払う授業料に見合うだけの学びができるのかを判断できる。
  • ACTAが「透明性」を提供する一方で、各大学の財政状況は悪化している。
  • 経済低迷で大学への寄付金は減少している。大学自身も流動性の低い資産に投資をした結果、身動きがとれなくなっている。
  • 州レベルでは大学授業料値上げを実施しているが、大学予算そのものは減少している。
  • 昨今の大学は管理職層が膨張している。かつてはカウンセラーも、分校の職員・世話人も少人数でやっていたのだから、昔のように戻せなくもないだろう。
  • 民主党共和党も長いこと単科大学への参加機会増大を訴え、その指標となる高校からの進学率を増やそうと頑張ってきた。
  • だが、単科大学は万人向けではないことが明らかになってきた。
  • そもそもの基礎学力が足りない人もいるし、そもそも大学を出ることに興味を持たない人もいる。
  • 今から一世紀前の1910年、米国の単科大学卒業率は2%。総人数39755で、現在の大規模大学一校分にもならない。
  • だが戦後のGI Billによる退役兵奨学金制度や、その後の経済成長で大学進学者数は増加を始めた。
  • また、政府補助奨学ローンの増加により、過去30年間、経済成長より速い勢いで大学は成長を続けた。
  • だが成長神話はやがて飽和につながる。
  • アメリカの大学(単科も総合も)の多くは既に大学としての役目を果たしていない。
  • しかも、もはや持続不能な段階に来ている。
  • 大学だけは需要と供給の法則が当てはまらず景気循環周期と無関係であるという幻想は、今まさに崩壊しようとしている。

25万ドル

NYTのHow Debt Can Destroy a Budding Relationshipという記事には、アメリカの大学における就学ローンの実態が報道されている。大学4年を終える頃には、25万ドル(2100万円)の借金を抱えることになるのである。アメリカの就学ローン大手Sally Maeのサイトによれば、これらのローンの金利は「LIBOR+10.875%」なんてのもある。

乱暴な計算をしてみよう。

仮に10%で借りたとして、運良く年収10万ドルの仕事にありつけたとしても、

  • 税金で3万ドル
  • 保険やSocial Securityで1万ドル
  • ローン返済金利分で2万5000ドル
  • ローン返済元本分で1万ドル(25年返済を想定)

→残りは2万5000ドル。まあなんとかなるかもしれない。持ち家などは諦め、車は安い中古で。結婚は遅めに。

だがカリフォルニアのシリコンバレーでも、世帯あたり収入は平均5万ドルないのである。もし5万ドルの年収なら、

  • 税金で12500ドル
  • 保険やSocial Securityで5000ドル
  • ローン返済金利分で2万5000ドル
  • ローン返済元本分で1万ドル(25年返済を想定)

→足りません。

つまり、大学4年で25万ドルも借りるのであれば、年収10万ドルの仕事を見つけないと相当厳しい人生を送るということになる。ならば、無理して大学など行かず、明日からでも食っていける仕事に就くほうが良いのでないの? というお話。