へそ曲がり(Contrarian)のための経済学: ニューディール政策が大恐慌を悪化させた

(またまた)暴露されたニューディール政策

Mises Daily: Monday, September 27, 2004 by Thomas J. DiLorenzo


Henry HazlittやJohn T. Flynnらが1930年代に知っていたことを、マクロ経済モデルをこねくりまわしている連中もやっと気づいたようだ。フランクリン・ルーズベルト大統領によるニューディール政策大恐慌を長期化・深刻化させた、という事実。ルーズベルト大統領が大恐慌からアメリカと資本主義を救った、というのは作り話なんだな。アメリカ国民は何世代にも渡ってこの話を教科書で教えられてきたから信じきっているけどさ。


この事実にやっと気づいたマクロ経済学者はUCLAのHarold L. ColeとLee E. Ohanianで、2004年8月のJournal of Political Economy誌に「ニューディール政策大恐慌の長期化:その一般均衡解析」という論文を寄稿している。これは大事件だ。なぜなら、JPEは経済学論文誌としては間違いなく世界最高峰だから。


「成人あたり実質GDP大恐慌の底を打った1933年にトレンドから39%下落していたが、1939年でも27%下にとどまったままであった。同様に、1933年の労働時間はトレンドより27%減で、1939年は21%減にとどまった。」と論文では指摘されている。


これは大恐慌研究者達には驚くような話ではない。米国国勢調査局の統計によれば1939年の失業率は17.2%であり、7年に及んだルーズベルト政権による「経済救済」の効果はその程度のものであった。(ちなみに大恐慌前の失業率は3%程度だった。) 世帯あたりGDPに至っては1929年の$857より下がって、1939年は$847だった。個人消費も同様で、1939年は676億ドルでこれは1929年の789億ドルより低下している。1940年の民間投資額は1930年より31億ドル減っている。


ColeとOhanianはこの発見を大きな驚きとして論文に書いているが、彼らが驚いているのはニューディール政策という神話に騙されたからではない。新古典モデルを実経済に適用した場合の乖離に驚いているのである。彼らは大恐慌からの経済回復が「極めて弱い」(これでも褒めすぎだと思うが)ことに非常にショックを受けている。なぜそんなにショックなのか? 新古典派の理論と全く合わないからである。


新古典派による大恐慌モデルは、映画のフランケンシュタインみたいに考えればよいだろう。同論文でColeとOhanianは「この弱々しい回復は理解困難である。なぜなら、1929年から1933年に米国を襲った通貨、生産性、金融などの収縮ショックは1933年以降は拡大傾向にあったはずだからだ。」と記述している。つまり新古典モデルでは大恐慌経済は意気消沈したフランケンシュタインのようなものであり、気狂い科学者が「ショック」を与えることで再び生気を取り戻す、と考えられたのである。政府部門消費による様々な「注入」や、信用供与の拡大などが「勢いある」回復をもたらしたはずであった。(若返ったフランケンシュタインが研究室を飛び出して市民を怖がらせたような感じね)


マネタリーベースは1933年から1939年までの間に倍増し、このような「マネタリーショック療法」が経済を正常状態に戻すはずだった、と同論文では指摘されている。この論文は、マクロ経済学の大家Robert LucasとLeonard Rappingの「マネタリーショックにより、経済は力強い回復を見せ、雇用は1936年までに正常に戻った」という説を引き合いに出している。


だが、Murray RothbardがAmerica's Great Depressionで述べているように、1920年代前半から中盤までの金融緩和政策が産んだ過剰投資こそが大恐慌の引き金なのである。正しい政策は、何百もの過剰資本を抱えた事業の清算を受け入れることだった。だが、Fedは5年かけてマネタリーベースを5年かけて倍増させ、大恐慌を引き起こした原因で有る過剰資本の状態を維持したわけである。


さらに加えて、ルーズベルト大統領の「ニューディール政策」一つ一つが、大恐慌をさらに悪化・長期化させたのである。オーストリア経済学派はこんなことは何十年も前から知っていた。そして新古典派のモデル屋達もついにこの事実に気づいたようだ。希望はある。


ColeとOhanianは構築するのにやたらと時間がかかるマクロ経済学モデルをいじくっているうちに、第一期ニューディール政策(1933-34年)が、巨大なカルテル構造であったことに気づいたようだ。その期間は政府主導で農業や工業製品の最低価格が決められ、生産量は低めに抑えられた。この件は1948年刊T. FlynnのThe Roosevelt Mythに詳しく説明されている。Henry Hazlittはさらに15年前にこのことを書いていた。「ニューディールカルテル政策こそが回復を弱めた主要因であり、実生産量とトレンド乖離の60%はカルテル政策に起因する」


「主流派」ともいうべき新古典派の皆さんがこの事実に気づくまでこれほど長い期間を要したとは驚くべきことである。何世代にも渡って経済の教科書には、このカルテル構造と「生産抑制」が物価上昇に寄与してデフレから脱却した、と記述されてきた。第一期ニューディール政策では、政府主導のカルテル強要により給与水準や物価水準を上昇させようとしていたことは周知の事実である。


ルーズベルトとその取り巻き達は、恐慌が物価下落で引き起こされたという誤った認識を持っていた。国家が力づくで物価を上昇させることで、恐慌から脱却できると信じていたのである。だがちょっと考えればわかることだが、生産抑制を実施するということは、より少ない労働力しかいらない、ということであり、当然ながら失業率は上昇する。すなわち、第一期ニューディール政策とは標準的な新古典派経済学理論によれば、超巨大失業製造構造に他ならないわけである。


ルーズベルトの大増税や規制強化、反事業活動的なプロパガンダ大恐慌悪化を促進したわけだが、彼の雇用政策がアメリカの労働者達にとって最も甚大な被害を与えたのは確かだろう。Cole-Ohanian論文の残念なところは、ルーズベルトの雇用政策について先進的な研究をしたRichard VedderとLowell GallawayのOut of Work: Unemployment and Government in Twentieth Century America(1933)について引用すらしていないことだ。


Cole-OhanianがVedder/Gallawayの研究成果を引用せずに、同様な議論を展開しているのは問題かもしれない。雇用政策に関して、Vedderらと同様の事実を列挙している: 全米産業復興法(NIRA)による最低賃金設定;雇用者は労組との交渉が強制されたこと;これらは新設された全米労働関係委員会の強制で行われたこと。結果として、雇用コストは上昇し、当然ながら雇用数は減少することになった。


ストライク活動は1936年の1400万件から1937年には2800万に増加。そして、賃金は1937年だけで15%上昇。労組・非労組の給与差は1933年は5%だったが、1940年には23%に拡大。新たに導入された社会保障費と失業保険税が、雇用コストをさらに押し上げた。雇用の回復が弱いか、むしろ減少しているような期間に、政府の雇用政策は雇用コストを大幅に上昇させ、結果として企業が雇用を減らすようにしていたわけだ。


VedderとGallawayは雇用コストを上昇させる政策に関して分析し、これらの政策がなかったら1930年代の異常なまでの高失業率は回避されたはずだ、と結論した。もしこのような政策がなかったら、1940年の失業率は8%低かったはずだ、という分析をしている。「大恐慌の強度と期間を極端に悪化させた原因はニューディール政策だ」(P141)


ColeとOhanianの研究も全く同じ結論に到達している。だが、その表現は「経済論文誌の最高峰」らしく、ちょっと難解なものになっている: 「ニューディールの雇用政策と生産調整政策は経済を浮揚させることはできなかった。労組の交渉力増強は給与水準を大幅に上昇させたが、結果として雇用を減らしてしまった。これらの政策が放棄された1940年代は、経済の力強い回復時期と一致している。」


この「ルーズベルト政策の放棄が、1940年の経済回復時期と一致している」という結論は、やはりColeとOhanianが無視したRobert Higgsが指摘していた話である。論文「Regime Uncertainty: Why the Great Depression Lasted So Long and Why Prosperity Resumed after the War」(Independent Review, Spring 1997)において、Higgsは「経済回復の原動力は、ニューディール政策の中断と、連邦政府予算の縮小(984億ドル/1945→330億ドル/1948)だった」と指摘している。1946年だけで民間部門の生産量は1/3増加した。民間の資本投資が増加したのは18年ぶりのことだった。


つまるところ、大恐慌を終わらせたのは資本主義であり、ルーズベルトによるカルテル主義、賃金増加政策、労組政策、社会保障政策等の「大きな政府」ではなかったのである。Journal of Political Economyやシカゴ大学、あるいはUCLAなどといった新古典派が、ようやくオーストリア学派に追いついたのは喜ばしいことである。

まとめ

  • ルーズベルト(FDR)のニューディール政策が、大恐慌を長期化・深刻化させた。
  • FDRは「物価の下落」が恐慌の引き金になったと信じていたので、物価を上昇させる一方で生産量を抑えるカルテル政策を次々と投入。
  • だが、生産量を抑えるということはより少ない労働者しかいらない、ということなので必然的に失業率は上昇する。
  • そこで労組の交渉権を認め、最低賃金を定めたり、失業保険制度や社会保障制度を投入するが、これらはさらに雇用コストを上昇させるので、雇用はむしろ減る。
  • 大恐慌の終息は、最終的にはニューディール政策の放棄と連邦政府予算の「縮小」がもたらした。
  • もっと早く終息させるには、過剰投資の企業をどんどん清算させることが必要だった。


懸念事項

  • 自分らは教科書で「大恐慌から経済を救ったのはニューディール政策」と習ってきた。
  • これはアメリカでも同様らしい。
  • Ben Bernankeは大恐慌に関して十分研究してきたから、「マネタリーベースを5年かけて倍増など手ぬるい。もっと短期間でどかんと増やせばよいのじゃよ」と思っているかもしれない。
  • だが...大統領や議員さん達は、ニューディール政策マンセーで育っているのである。
  • どんどん延長される失業保険、実質増税となりそうな医療保険制度改革、消費者にさらなる出費を強いる温暖化対策...
  • いずれも、雇用コストを押し上げる。すなわち、企業は「できるだけ正規雇用を減らそう」とする。
  • 歴史は繰り返すのではなかろうか。

非キリスト教徒にとってのクリスマスとは?

San Jose Mercury: Stars, angels can return to Christmas trees in Sonoma County government buildings

  • ☆...ダメ
  • 天使...ダメ
  • 上記記事ではSanta RosaにあるSonoma郡庁舎に飾られたツリーに☆や天使がつけられているのを目ざとくも発見した無神論者が当局にクレームを入れ、それらを撤去させた話が掲載されている。
  • 一方で言論表現の自由もあるので、この手の話は揉め始めると長い。


ところで...ユダヤ教の人達はクリスマスどうしているの?

  • ほとんどの店は休みである。
  • だが、中華レストランはなぜか開いている。
  • なので、Jewishの皆さんは中華料理を食って、そのまま映画を観に行く、というのが定石らしい。
  • 無信仰な在米日本人も同様の傾向にあり。
  • よって、このような過ごし方を「J-Christmas」という。