狂騒と萎縮の経済学

狂騒と萎縮の経済学

狂騒と萎縮の経済学

  • 28頁より引用

もちろん、すべての景気循環で、過剰な支出、需要の先食いが起きるものである。景気が良くなったと感じれば、あと一年我慢しようと思っていた家電製品や車を今買い換えたりする。家電製品や車をつくる工場も売れ行きが伸びてきたので残業時間を伸ばしたり、機械設備を新しいものに換えたりする。このような対応が、もし強気に過ぎれば、後から売れない在庫や過剰設備を抱えて苦しむことになる。しかし、これはあらゆる景気循環で生じることである。家電や車はいつまでもそのままにしておけるわけではない。いつかはうまく動かなくなるものだから、一〜二年我慢していれば必ず景気はまた良くなるはずだ。実際、戦後から今までの景気後退期間は、最短四ヶ月(1951年6月〜10月)、最長36ヶ月(1980年2月〜83年2月)、平均14ヶ月である。なお、36ヶ月間の景気後退は、第二次石油ショックの後遺症に悩む世界同時不況によるものである。

→ここまでは循環型(Cyclic)景気後退のお話。

今回の景気循環では、これまでとは質の異なる需要の先食いがあった。質の先食い、ストックの先食いとでもいうべきものがあった。所得が上昇したと思ってワンランク上の生活をはじめた。バブル以前、新入社員はカローラを買い、係長はコロナを買い、課長はマークⅡを買い、重役になって初めてクラウンを買うものであった。ところが、新入社員がマークⅡを買うようになった。重役は買う車がなくて困ってしまったので、日産がシーマをつくり、トヨタセルシオをつくった。高い車がどんどん売れ始めた。1986年から89年にかけて、カローラよりもマークⅡが余計に売れた月が何度もあった。こんなに儲かるものならばとどんどん投資をはじめたところでバブルが崩壊した。もし、新入社員がマークⅡを買ったのは誤りだった、やはり自分はカローラから始めるべきだったと考えれば、この需要はしばらく回復しない。

  • この本は日本のバブル崩壊後の1993年に発行されたもの。その景気後退が通常の循環型とは異なる、Secularな変化であることを鋭く分析していた。
  • で、書かれている事は今のアメリカにもあてはまる。
  • アメリカ国民が「身の丈に応じた生活」を始めるなら、以前のような「消費大国」には戻らんだろう。
  • そういうSecularな変化があるのに、通常の循環型景気後退と同じような考えで備えるのは、ちょいとまずいんでないかね。

関連: Revealed: The ghost fleet of the recession

  • 落ち込んだ需要を象徴するような写真。

  • 運ぶモノがなくなり、使われなくなった輸送船。
  • マレーシア沖に放置されているそうな。