お金をドブに捨てる方法

「新事業を立ち上げよ。ただし立ち上げ期間はなるべく短く。資本金はなるべく少なく。投資回収はなるべく短期間で、利益率はできるだけ大きく。リスクはできるだけ小さく。」

大企業における社内事業創出制度なんて、どこもこんな感じではなかろうか。

もちろん、お財布を握る経営者たちの言い分も理解できるよ。

彼らには株主に対する説明責任がある。5年後か10年後かに花開くかもしれない新事業に毎年何億円も燃やすくらいなら、今の事業構造のままオフショア使って人件費を毎年何億円か節約する方が確実だし、わかりやすい。株主への説得もしやすいし、税務署も納得しやすい。「花開くかどうかわからない新事業への投資」は税吏から見れば利益隠蔽と紙一重だ。

だから経営者はよりリスクが小さく、成長確実な「新事業」を求める、

でもちょっと考えればわかることだけど、そんな都合の良い新事業なんてものはあまり存在しない。もしかしたら、存在し得ない。

社会を変えちゃう位の新技術-例えば1993年当時のNCSA Mosaic-を元に「新事業」を描いても、ほとんどの経営者はそれを理解できないことであろう。当時日本で働いていた自分は、Mosaicを使った簡単なデモを載せたPowerBookを持っていくつかの企業に営業しに行ったことがある。「これは広告媒体として面白い」という反応を示してくれたのは博報堂の偉い人一人だけだった。あとは無反応というよりは理解不能状態。そりゃそうだ。彼らはマウスやキーボードすら触ったことがなかったのだから。

結局、新事業は「経営者や株主がわかりやすい」路線に落とさざるを得ない。わかりやすい事業展開領域、わかりやすい技術、そして徹底したリスク回避。

  • わかりやすい事業展開領域=激しい競争
  • わかりやすい技術=良くいえば枯れているが、差別化要素にもならない
  • 徹底したリスク回避=利益率が下がるだけ

こんな前提でまともに事業計画を描いても明るい未来は開けない。明るい未来がなければ新事業の資金はでてこない。だから、目標だけは不相応に高く置くことになる。分厚い新事業提案書のほとんどは、この不相応さをいかにごまかすか、に費されているといってもよかろう。

そして事業開始から早くて半年、遅くても数年後には「想定以上の競争にさらされ、宣伝広告費が増加。さらに値下げ競争で粗利低下。結果、当初目標に届かなかった。」みたいな言い訳をして増資に至る、みたいな展開が繰り広げられる。お金はドブに捨てられるだけ。

見え見えの展開なんだけど、表向きは完璧な計画があったから誰も責任とらなくて済む。素晴らしい。そして、アホくさい。