高価格帯住宅市場の今後

Mr. Mortgageこと、Mark Hanson: 9-17 Ominous Mid-to-High End Housing Data Point

  • 例によって適当速攻意訳

中〜高価格帯住宅の前途は暗い

昨日、雑誌の記者が、7月の中古住宅販売データから、中〜高価格帯市場の今後について聞かせてくれ、って電話してきた。

ていうことで、整理するよ。住宅バブルの時代には、50万ドルを越える家の取引は極普通だった。カリフォルニア州の2005年から2007年にかけての取引平均価格は45万ドルを越えていたんだ。販売件数も半端じゃなかった。夏の間は、全米合計で月70万件売れるのが普通だった。

それが今年の7月になると...戸建住宅の販売件数はたったの46万件。みんな住宅市場底打ち、という報道で気づかなかったろうけど、6月の46万5000件から減少しているんだね。7月に売れた46万件のうち、50万ドルを越えていたのはたったの1万2千件。全体の2.5%だ。手元には50万ドル超の在庫データがないのではっきりと断言はできないけど、全市場の5%が50万ドル超と仮定しても、この1万2千件/月という勢いだと、1.75年分の在庫を抱えていることになる。あ、ちなみにね、カリフォルニア州だけで、8月の50万ドル超NOD(Notice of Default)は1万2千件あったんだよ。

この2.5%という数字は、今の家を売って新しい家を買うという買い替えの動きがいかに少ないかを物語っている。その背景にあるのは、債務超過世帯の増加と、(バブル時代に流行った)変種住宅ローンの絶滅だ。

ここで「債務超過」の意味をもう一度考え直してみよう。バブル時代には当たり前だった、頭金ゼロローンなんてのはもう存在しないし、住宅購入後にホームエクイティローンで住宅価値100%分の現金を引き出す、なんていう芸当ももう無理だよね。つまり、今から家を買い換えようという人は、頭金20%に加えて不動産業者に払う手数料分まで含めて現金で用意する必要があるわけだ。中〜高価格帯住宅は頭金20%積まないとローン組めないからね。多くのアナリストは、ローン残高が不動産評価価格を越える時点を「債務超過」の判断に使っているけど、実はそうじゃないんだな。

もし今の家を売って、新しい家の頭金20%+不動産業者に払う手数料6%+引越し代など諸々の費用などを払える分の現金が残らなければ、その人は実質債務超過状態にある、と言える。家を持っている人たちは、みんなこの事実に気づいているんだ。含み益が15%しかない人は、その家から抜け出せない、ということをわかっている。こういう人達はとにかく債務を減らし、貯蓄を増やそうとする。結果、消費行動も大きく変わって、景気後退が深刻化したわけだ。

債務超過かどうか判断する基準をLTV100%から74%(頭金20%+不動産手数料6%)まで下げると、物事ががらっと変わって見えてくる。(参照) 既に家を持っている層の買換え需要が活発化しない限り、この国の住宅市場は底を打たないんだ。

中〜高価格帯が2.5%しか売れてないという事実は、ジャンボプライム、Pay Option ARMやAlt-Aといったローンの崩壊がいかにすさまじかったかを物語っている。そして、借換促進などで問題を先送りしても、この後にやってくるフォアクロージャーの津波はすごいことになるだろう。買い手はどこからやってくるっていうんだ? この価格帯の供給はもはや制御不能な段階に来ている。低価格帯の住宅市場は盛り上がっているけど、投資目的の連中は60万ドルを超える物件には手を出してこない。買っても、売りたいときに売れないのがわかっているからね。賃貸するにしても、家賃相場が下がってきている中で利益を出すのは難しい。初めて家を買う層は、この価格帯には手が出ない。

中〜高価格帯の物件がどうなるか? いくつか考えてみた。どれが理にかなっていると思う?

  1. バブル期にあった変種ローンよりすさまじい超変種ローンが登場する。物件価格の100%を超える額を、収入無審査でほいほい貸してくれる様なローン。これにより、買換え需要が一気に巻き起こり、問題解決♪
  2. 銀行は借手に対する差押さえを一切放棄し、問題をひたすら先送り。借手がなんとかして債務超過状態から抜けるのをずっと待つ。
  3. 50万ドル以上を現金でぽん!と払ってくれる外国人達に市民権を即時発行し、家を買わせる。
  4. 債務超過の人達に対し、信用履歴を傷つけずに元本返済免除。
  5. 全国民の収入を倍にする
  6. すさまじいインフレ政策を実施し、ローン残高を簡単に返せるようにする。
  7. 平均的な人達が一般的なローンを組める価格帯まで、住宅価格が下がるに任せる

他の方法もあるかもしれないし、上記の組み合わせという状態もあるかもしれない。でも、一番ありそうなのは7番だよな。そして7番こそ、2007年以降俺たちが目の当たりにした現象そのものなんだよね。政府が万策尽き、「新たな正常」が生まれるその日、100万ドルの家は、百万長者しか買えないようになる。頭金27万ドルを現金で用意し、年収20万ドルをきちんと証明できる人だけが100万ドルの家を買える、ってことだ。そういう人たちが買えない家の価格は、それなりの価格帯まで落ちることになる。

この図は、First American社が集計した「Negative Equity Report」から引用したもの。星印がついた州は、平均LTV(Loan To Value)が次の家の頭金や手数料を払うのに足らない所。LTVを赤枠で囲ってある州は、この後相当厳しいことになるだろうね。ネバダ州はガソリン撒いて火をつけて、ブルドーザーで更地にしないといかんかもな。

そんじゃまた。

Mark Hanson