人間、心配事は少ないに越したことはない。明日どう生きるかで悩むというのは辛い。明日はなんとかなっても、明後日どうなるか不安というのも、やはりつらい。できれば一週間先も心配したくはない。さらには一ヶ月、一年、10年、、、と心配事が減れば減るほど安心できる。
だからこそ政治家は安心、安定を約束する。自民党も民主党も国民新党も社民党ですらも「経済の安定成長」を約束している。
だが、この「安定化政策」こそが経済を不安定にする原因であり、安定化に費やされる期間が長ければ長いほどその後の混乱も大きくなる、と主張するのが1974年に提唱されたミンスキー理論である。
3つの状態
ミンスキーは経済の状態を、収入と負債の関係で「Hedge(リスク回避)」「Speculative(投機)」「Ponzi(ねずみ講状態)」の3つに分類した。
- Hedge(リスク回避)
- 資産を購入する人達が、キャッシュフローで利息と元本返済を賄える範囲の借り入れしか行わない状態。
- 債務超過に陥る可能性は小さいから、経済は安定。
- Speculative(投機)
- 資産を購入する人達がリスクを取り始める状態。
- キャッシュフローは利息返済には回せるが、元本償却には足らない。
- つまり、借手は「低金利安定」「担保価値が下落しないこと」をあてにしている。
- この状態が長続きすればするほど、投資家はリスクを取ることに大胆になっていく。
- Ponzi(ねずみ講状態)
- キャッシュフローは利息返済にも元本償却にも不足という状態。
- 借手は、資産価格上昇が続くことを前提において行動。
- Ponzi状態は持続不能。資産保有は利回り目的ではなく、より高い価格で転売することにあるから。
- 新しい買手が現れなくなった時点で流れが止まり、資産価格上昇は止まる。
- 貸出の前提は資産価格上昇だったので、金融機関は貸出条件を一斉にきつくする。
- 借換に頼っていたような脆弱な財務体質の投資家から「あぼ〜ん」が始まる。
- 資産価格の下落は、次々と債務超過の投資家を追い込み、債務整理が続く。
- 債務整理が終わると、経済はHedge状態に戻る。
- 景気変動は市場に含まれた自浄作用だったのである。
安定化が埋め込む不安定化の種
- が...最初に述べたように民衆は安定を志向する。
- だから政府も業界の規制や保護という形で、その要望に応えちゃう。
- 結果、貸手も借手も投資家も、み〜んなリスクを取ることに大胆になってしまう。
- アメリカ住宅バブルでいえば、Option ARMや逆償却ローンなどの変種ローンとか。
- あるいはそれらを証券化したものとか。
- SIVとか。
- 残るのはToo Big To Fail(大きすぎてつぶせない)になった経済。
- 安定志向の市場は信用不安を嫌う。
- ましてやToo Big To Failな状態からの大規模な調整はなおさらだ。
- なので政府や中央銀行は何が何でも市場を救おうとする。
- リフレーション政策はその典型。
- だが、積もり積もった債務債権が整理されるまでは健全なHedge状態は実現されない。
- リフレーションは問題の先送りでしかない。