実感なき景気回復(あるいは回復格差)

老後の金をIRAや401K口座で投信中心に運用しなければならない典型的アメリカサラリーマンはデイトレーダーの皆さんと違って中長期視点で動かないといかんわけで。従って判断はどうしてもファンダに偏ってしまう。うんそりゃチャート的には今の相場は固そう。どよよ〜んとした薄商いの中じわじわと上げていく雰囲気は濃い。でも何かが引っかかり、ロングに張り込めない運用担当がここにいる。

その不安は今月に入ってからの上場企業の好調な決算発表と、日々自転車通勤しながら観察する街中の光景との乖離とでも言えようか。そりゃ、今年の1〜2月の「どん底」ともいえる寒い光景に較べれば、今はまだ明るさはある。だとしても、"FOR LEASE" "FOR SALE"という看板が掲げられた空室商用不動産の数は尋常ではなく、いったいどこから企業は好決算をたたき出しているのかと不思議に思えてしまうのである。

The Reformed Broker: Recovery Apartheid(回復格差)

  • TwitterReformedBrokerというハンドル名でネタばかり書いているおじさんのブログ。
  • Recovery Apartheidとは、同氏が考えた言葉。だが脚注にもあるように「みんな自由に使って良いよ。そのうち経済の教科書にも載るようになるから」と言っているので遠慮なく使ってしまおう。
  • 回復格差、とでも訳せば良いのか。

ReformedBroker氏が観察する街の光景も、自分と同様だ。

人々は外食回数を減らす一方、ガソリンは買わざるを得ないので石油企業はどんどん太る。その割にはガソリンスタンドはじわじわ潰れていき、大規模量販店は客を集めているが街中の小規模店は家賃を払えず店を畳んでしまう。

「S&P500企業の決算発表みたいな感じで、地元のレストランや食堂、自動車ディーラーなどの決算発表会見を4週連続で続けたらどうなるか想像してみろ。7月13日から4%も株価が上昇するような事態になったと思うか?」

NFIB(National Federation of Independent Business)の最新景況感が紹介されている。

Here's what the real "norm" is for small company owners these days - according to the latest NFIB Small Business Optimism survey, "the score of business owners who have reported higher nominal sales over the past three months fell by four points and now stands at a net negative 15 percent."

English translation - nobody's buying nothing.

おそらく原文はWASHINGTON, July 13, 2010発表の資料と思われる。これはNFIBが米国の中小企業(SMB)850社に対して6月に実施した調査で、内容は「悲惨」の一言である。ReformedBroker氏の言葉を借りれば「誰も何も買ってくれない」のが中小企業の現実なのである。

米国GDPのざっと半分を占めるSMBがこのような不調を訴えているのに、S&P500に代表される大企業は好決算。この格差を「Recovery Apartheid」と呼んでいる訳だ。

この差が生じるのは、米国政府が打ち出してきた景気刺激策が大企業に有利であったから。この状況で、オバマ政権が確立した医療保険制度改革によるコスト圧迫や、今後避けようのない増税が始まったら、中小企業はさらに苦しい状況に追い込まれる。

ReformedBroker氏が描く可能性は二つ。

  • S&P500に代表される大企業が驚異的な回復を達成し、その波及効果で米国経済全体が浮上する。
  • 政府の景気刺激策が息切れし、在庫積み増しによる生産活動も下火になり、「回復格差」は実は一時的な現象だったことが明確になる。そして大企業も中小企業と同様に「誰も何も買ってくれない」状況に追い込まれる。

ロング持ちに踏み切れないのは、後者の筋書きを消しきれないからなんだろうな...