建築基準、景観基準

日本でも建蔽率基準とか強度基準とか、建築物に対する規制は厳しいだろうけど、この事例を見て皆さんどう思うだろうか?

Mountain View Voice: No place like demolished home

  • 913 Boranda Avenue, Mountain View, CAに「あった」物件のお話。


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Google Street Viewではまだ建物が残っている。

Loretta Pangracという女性が長年住んでいたこの家は、数年前なら40万ドルの値段で売ることもできたらしい。土地も建物ももちろん彼女のもの。だが、手入れが足らなかったのか*1屋根や壁から雨水が浸食を始め、2009年秋の大雨で屋根が崩落。市当局はこの家を不法妨害物件(a public nuisance)と判断し、同家を封鎖。彼女は家から追い出され、とりあえずはホテル住まいとなる。

検査の結果、市は建物を修復するのは無理と判断し、この家を破壊・撤去してしまった。撤去費用はLoretta Pangracさん持ちとなる。彼女の不動産に$19,360の抵当権が市当局からつけられている。土地を処分しても、$19,360分は市当局が確保しますよ、ということだ。

新築建て直しの費用は25万ドル。だが、この年金暮らしの女性にそれだけの支払能力はないので、どの建築業者もそっぽを向くだろう。

Lorettaさんはモバイルホーム(日本でいうプレハブ住宅: 安い)をこの土地に持ってきて住みたい、と話しているがMountain View市の規定でモバイルホームはモバイルホームパークにしか置けない。その場合、毎月の土地代が発生する。やはり年金生活者には厳しい額である。

結局、彼女はこの土地を手放し、市当局への借りを返して、家賃が安い町に引っ越してそこでひっそりと賃貸生活するしかないのかもしれない。もしかしたらそれも無理で、路上生活となるのかもしれない。

感想等

自由の国アメリカだが、住宅については厳しい規制をかけている自治体が珍しくない。歳入の多くを不動産税に頼る以上、できるだけ不動産価値が上昇するような仕掛けを用意するのは当然であろう。

新築時はもちろん、改築や外装の塗りなおしであっても、市当局の許認可を必要とするのはベイエリアでは普通である。茶系統の家が並んでいる中、一軒だけピンクの家を作りたいなどという願いはおそらく100%却下されるだろうし、「うちは庭を広くしたいので3階建てにします」なんてのを一階規制区域で実現するのも無理。上の記事にあるように、戸建住宅区域にモバイルホームを持ってこられないのも同様の理由だ。区域・地域の景観に一貫性を持たせることで、その地域の不動産価値を高める。それが市の財政を助ける。

景観に一貫性を持たせる、というのは建築や改築の時にだけ発生する問題ではない。むしろ、恒常的に発生しうる問題なのである。ウワモノ(家屋)は耐久消費財と捉えるべきであり、放置すればかならず劣化する。なのでこまめな保守は必須であり、それでもやがては寿命を迎える。*2 小奇麗な建物が並ぶ一角に、一軒だけヨレヨレのお化け屋敷みたいな家があったら、やはりそれは「地域の不動産価値に」負の影響を与えられるので、家の保有者はきちんとした保守を求められる。割れ窓理論と同じで、こういう家が一件許されれば周囲の家も保守を怠り、気がつけばあたり一帯がヤバい家だらけになってドラッグの売人がうろつくようになっていた、なんてのは充分可能性がある国なので「家をきちんと補修しろ」というのは、それなりの街であればあるほど厳しくなる規則なのである。

こうして考えると、今回のMountain View市の対応は「やむを得ないが、もっと早く動けなかったのかな」という印象を抱く。Street Viewの写真を見ればわかるが、どう考えてもヤバかったわけなのよこの家は。なのでこの段階で当局は介入するべきだったろうし、この段階なら補修費用も安くて済んだはず。そして40万ドルは無理としても20万ドルで売り逃げれば、Lorettaさんは余生を高めの老人ホームで豪勢に暮らせたかもしれないのに。そして市当局は、閑静な住宅街にある一角の荒れ果てた空き地という、やはり周囲の不動産価格を引き下げるような光景も見なくて済んだろうに。

もう一つ。

小さな家であっても、老後のために買っておいたという世帯は相当数存在する。あとは年金を取り崩していけば、なんとかなるだろうという算段だ。でも、生活がカツカツな状態になれば、日々の食事と屋根の補修のどちらに優先度を置くだろうか? 普通は食事である。こうして、手入れ不足で急速に価値を失っていく住宅も増えてくるのではなかろうか。この流れが一段落する頃に、住宅市場は需給バランスとれて反転するんじゃないかな。今から15〜20年位先ですかね。

追記

Redfinで見ると、この土地は今年の4月に$375,000で売れたことになっている。435sqfでこの値段ってことは、$862/sqfですか。呆然。

*1:写真からは相当古い家だということは推定できるが

*2:ベイエリアの住宅では築50年というのはそれほど珍しくないし、1906年のサンフランシスコ大地震を生き延びたツワモノも現存している